【まちブラ看板散策】渋谷のそとがわ編〜センター街以外のシブヤの看板たち〜

2018年後半も半ばに差し掛かり、今年も残すところ4ヶ月を切ったわけだが、義務教育時代のスケジュール感覚が身に染みているのか体感的にはようやく今年の折り返しである。

余談はさておき、記録的な猛暑が続いた平成最後の夏も終わり、まち歩きにもふさわしい9月である。今回のまちブラはシブヤの看板観察だ。

前回のまちブラ『東京駅八重洲口編』はこちらから


言わずと知れたシブヤといえば、東京を代表する繁華街のひとつ。新宿、池袋と並ぶ3大副都心の一つであり、ターミナル駅である渋谷駅を中心とした大規模な繁華街が形成されている。

最先端の流行やファッション、音楽が集まる若者文化の街として独自の文化を育んできた街であるが、今回はバスケットボールストリート、いわゆる“センター街”からあえて少しずれた通りの看板たちを見ていこう。

ワンポイント・ハニカム

樹の幹か岩肌を思わせるダイヤ形状の凹凸した壁面に、ぽこんと取り付いたハニカム型のアクリルボックスサインである。ケミカルなマゼンタの色合いながら、高度に意匠化したデザインから蜂の巣のような印象を受ける。
印象的なファサードのデザインと相まって、全体に占める面積はごくわずかながら、高い視認性とインパクトを放っている。

これくらい前に出ないと

ここまで全面にせり出したチャンネル文字は珍しいのはないだろうか。串焼き店の看板である。
趣向を凝らした看板が軒を連ねシノギを削る繁華街では、これくらいの前へ出る姿勢が求められるのだろう。たぶん。
しかし、この看板の白眉な点は赤い誘導ラインである。看板から垂れ下がった赤いラインが、建物の奥から伸びる赤いラインにバトンタッチし、そのまま地下一階の店舗へ続いている。視認性の誘導がそのまま動線になっているのだ。
地下店舗の看板ならではの一工夫だ。

FRPで受け継ぐ遺伝子

古来より看板は店舗の顔として往来に突出し、通行人に店の存在を主張してきた。江戸時代の看板などは字の読めない者でも何の店かわかるように看板の形に趣向を凝らしたという。つまり、酒屋なら樽の形の看板、傘屋なら傘の形の看板というわけ。
現代でもそれは変わらず、形というものは高い視認性と訴求力を持っている。焼き鳥屋ならニワトリの形の看板を掲出すれば酔客にも何屋か一目瞭然だ。
ただ変わったものもある。こちらの木彫風のニワトリは下の提灯ともども FRP(繊維強化プラスチック)製。変わらないものもあれば変わるものもある。ずっと変わらないのは看板に集う酔客だけということか。

チャンネル文字フレア

イタリアンとラーメンを組み合わせたまったく新しい「太陽のトマト麺」は、チェーン店ながら店舗ごとに看板のデザインが千差万別で変化に富むユニークなラーメン屋だ。
渋谷道玄坂支店の看板は、数ある同店の中でも最もインパクトがあるだろう。トマトをイメージした真っ赤な半球は、まさに太陽のよう。その表面に踊るチャンネル文字は、まるで太陽フレアのようではないか。
赤という視認性の高い色合いでありながら、どこか爽やかでどぎつさを感じさせないデザインの妙も特筆すべき点である。

内照式グラデーション

看板内側の縁の部分に電球色のLEDモジュールを並べたであろう内照式の看板である。本来のセオリーならば看板全体をまんべんなく照らすところ、あえて光量を抑え淡いグラデーションを描き出す表現が珍しい。
まるで間接照明のような柔らかい光の濃淡に、あえて小さく配置した店名のバランスによって、繊細な海鮮の味が想像できるようだ。
くわえて言えば、店舗の横にちょこんとついた正方形のボックスサインが、日の丸弁当のようで可愛らしい。

のれんに腕あり

ジャパニーズ・トラディショナル・サインといえば暖簾(のれん)である。古来より、店舗に風や直射日光が入るのを防いだり、また通りからの目隠しとして、内外を柔らかく仕切っていた。
こちらの暖簾はそれに加え、ファサード全面の店舗演出まで買って出ている。
伝統的な暖簾とソリッドな店舗ロゴの組み合わせは温故知新を感じさせ、隠れ家的な店舗の格式を高めている。

アイアン切り絵

イタリアンワインバーのロートアイアン。一瞬、壁に描かれた絵と錯覚してしまうほどの細かいデザインだ。描かれているのは、シチリアの旗にも描かれている「トリナクリア」である。
伝統芸能である「紙切り」をほうふつとさせる繊細な切り口が、製作者の技術の高さを窺わせる。
なお、本来のトリナクリアは、『大地の女神』メドゥーサの顔を中心に、膝を直角に曲げた脚が風車状に三本組み合わさった三脚巴紋とも呼ばれるシンボルである。トリナクリアは、イタリア・シチリアの別名または象徴であり、シチリア島の形である三角形を意味してもいる。(閑話休題)

凸凹過剰装飾

木材が積み重なったような木目ブロックの凹凸とチャンネル文字にアクリル行灯、電飾に透明アクリルのワンポイントとかなりの過剰装飾な店舗看板。
しかし一見して煩雑な印象を受けないのは、木目のバックと白い文字というシンプルなコントラストを保っているからだろう。
ハングル文字のような意匠で書かれた店舗名も洒落っ気が効いている。

こっそり

一人で呑んでいる時に「どこにいるのか?」と電話やLINEで聞かれた時は、「いまここにいるよ」と答えるのだろう。裏渋谷にある隠れ家的割烹である。
素通りするだけでは店名さえわからないが、立ち止まって意味ありげな小さな穴をのぞき込めば、ユーモラスな店名と相まってお店の存在がしっかり記憶に残る仕掛けだ。
看板は店舗のイメージ演出まで担えるという好例だろう。

繊細な細麺

奥まった位置取りの店舗へ視線を誘導するような青い袖看板と暖簾の配置である。しかしここでは対をなす赤いアクリル製のパネル看板に注目したい。
SHIBUYA SOUL FOODの象嵌文字の下に切り抜かれた麺を持ち上げる箸のシルエット。細麺を表現するためか大胆に切り抜かれた麺の部分が、ぽっきりと折れてしまいそうでハラハラしてしまう。
きっと大胆さと繊細さが両立した味なのだろう。

ひょっこり地下店舗

視認性確保のため創意工夫を続ける看板の中でも、店舗そのものが人目に触れない地下店舗の看板は、特に趣向を凝らす傾向にある。店の賑わいや雰囲気で自然と訴求ができないぶん、看板の役割は重大だ。
そこへいくとこちらの店舗看板からは、穴倉からひょっこりと顔を出すプレーリードッグのようなユーモラスで温かみのある雰囲気を感じる。ショーケースが取り付けられ、簡易のファサードともいうべき役割を与えられたA看板の注目度も高い。
垂れ幕バナーや行灯看板を賑やかしく配置することで、地下店舗でありながら開放的な疑似ファサードを作り出している。

視認性デルタフォーム

「どの角度から見ても訴求できる」という形状は、看板の理想形の一つだろう。その回答の一例がこちら。
このような形の突き出し看板は初めて見た。人工衛星のような、羽根突きのハネにような、トビウオのような、“やっこさん”のような不思議な形である。あなたは何に見えますか?
サイズとしては小ぶりながら、オンリーワンなスタイルでピリリと魅せる小粒な洒落者である。


繁華街の喧騒を背に渋谷の裏側の奥へと進んで行くと、徐々に看板が少なくなってくるものの、そのぶん見所の目覚しい看板たちが現れてくる。

周囲に看板が多ければ差別化から一工夫だが、周囲に看板がなければないで、やはり周囲の環境と制約の中で一工夫も二工夫も必要なのだろう。

次回もそんな小さくとも針は呑まれぬ看板たちを探しに行こう。

まちブラ中に見つけた工事中の看板。保護シートの隙間からぬぅっと顔を突き出すフグは、まるで怪獣のようだ。

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