2.江戸の“粋”が宿る手書き文字、手書き提灯職人

“江戸文字”のひとつである、かご文字を現在に受け継ぐ手書き提灯職人。半世紀にわたって筆耕業に携わり、第二の人生も筆一本に捧げる一人の「描き屋」の生きざまを追った。

第二の人生も「手書き」一筋

オーダーを受けてから一品一品、文字のサイズやデザインを見極めていく。「ざっと書くだけなら5年、なんでも書けるようになるには20年かかる」(福島)

墨を含んだ筆が、竹の骨組みに貼られた和紙の上に弧を描いて滑る。提灯の凹凸に沿って墨が流れないよう、墨汁の量を見極めるには、長年の経験により研ぎ澄まされた“勘”が必要だ。

提灯製造は、江戸時代頃から分業化が進み、とりわけ文字や家紋を描く職人のことを「描き屋」と呼ぶようになった。

現在、千葉県市川市の工房で筆を取り、腕に抱えた提灯に文字を書き入れるのは、この道50年の描き屋・福島栄峰(えいほう)さん。

浅草で生まれ、由緒ある建築物や看板に触れる機会も多かった福島さんは、小さい頃から絵や字を書くのが好きだったという。父を早くに亡くし、あちこちでバイトをしていた青年時代。看板屋を営んでいた叔父から「うちで働かないか」と声をかけられたことが、手書きの道を歩み出すきっかけとなった。

働きながらレタリングを学び、26歳の時に市川市で独立。69年、「有限会社はなぜん」を立ち上げて、文字書き業全般を手掛けてきた。

主な取引先は地元の葬儀会社。最盛期の1980年代には20人を越す従業員を抱えた。このほか、商店街のオーニングやペンキ看板、宛名書き、賞状書なども受注。選挙時には、急激に増える仕事依頼に対応するために、副業として営んでいた実用書道教室の教え子たちも動員するほどだった。

そんな時代も変わらず、祭りの季節になると町を彩っていたのが、提灯だった。当時から、福島さんの手書きを気に入り、依頼に来る人は多い。

現在では受注量こそ減少傾向だが、歴史ある地域の祭りなど、わびさびのある雰囲気を演出するために、提灯は欠かせない。

65歳を節目に会社経営を子息に譲った福島さんだが、提灯をはじめとした手書きの仕事は続けている。筆耕業専門店「手書き屋」を開業したのが、今から10年前だ。「第2の人生として、提灯と共に余生を過ごすと決めました」。

葬儀会社を相手にしていた頃と比べれば暇ですね、と笑うものの、1年のうち半分以上は筆を握っているという。その熟練の技術は、今も衰えを知らず、多くの顧客を抱えている。

提灯に円を描くときに使うコンパスは、箸などを削って作ったハンドメイドの一品。市販のコンパスでは本体の重みで和紙を破いてしまう

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