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看板経営.com

【まちブラ看板散策】早稲田・学生街編

4年ぶりとなる積雪に加え、記録的な寒さとなった2018年の一月だった。
成人式にセンター試験と冬の一大イベントも終わり、これにまつわる話題も尽きなかったが、この二つのイベントに共通するものとはなんだろうか。
そう、「若者」である。

そんなわけで今回の街ブラは、学生街・早稲田だ。

前回のまちブラ『上野・アメ横周辺編』はこちらから


だいたい「早稲田」といえば西早稲田を指すだろう。新宿区北部に位置し、西部は明治通りを境に高田馬場と隣接する。
いわずと知れた私学の雄、早稲田大学をはじめ、近隣を含め多くの大学・専門学校・予備校が集まった全国屈指の学生街の一つだ。また古書店街やラーメン激戦区といった顔も持つ。
街のプロフィールとしてはそんなところだが、看板はどうだろうか。さっそく行ってみた。

飛び出すトリック?アート

打ちっぱなしコンクリートの壁面に描かれたグラフィティ・アートのような店名サイン。一見すると壁面に直接描かれているようだが、実際にはバックライト・チャンネル文字である。
飛び出るような躍動感を感じて近づけば、実際に飛び出しているというトリックアートのような看板だ。最初に見たときは目の錯覚を疑った。
添えられた“ふりがな”は実際に壁に書かれているという使い分けも心にくい演出だ。
清潔感のあるファサードを占める割合は少なめながら、その存在感は抜群である。

そしてレトロ情緒へ

看板の板面をあえて透明にして、内容物をチラ見せする演出技法はこの連載でも度々取り上げてきた。こちらの「チラ見せ看板」の白眉な点は、そのチラ見せる内容である。
本来は隠すべき光源である蛍光灯を、あえてそのまま見せるというアヴァンギャルドな演出から受ける無機質さ、ソリッドさ。空虚な情緒とでもいうべき寂寞感とともに、どこかレトロな風情さえ感じないだろうか?
看板の主光源という立ち位置をLEDに譲りつつある蛍光灯である。彼らはもはや、レトロな演出の小道具になりつつあるのだろうか? 格子のような配置に去りつつある者たちの声なき声が聞こえる。
(どうもナイーヴな学生街の空気に中てられたようだ)

スマートないじられ役

女性歯科医のみのデンタルクリニックらしい。スマートなバックライトのチャンネル文字は、洒脱さを演出するのにうってつけの演出だが、ここで注目してほしいのはロゴマーク。
歯科医の「歯」の意匠は、看板界の定番“いじられ役”として知られている。
その理由の一つはこちらのロゴマークを見れば一目瞭然。直線主体のかなり抽象化したデザインにも関わらず、まだ「歯」として認識できるキャラクター性の強さがそこにはある。
これにならぶ看板観察の定番ネタとしては、眼科の「目」の字のデザインと、なぜかダジャレ率が異常に高い「豚料理」の店の店名がある。これは次回以降に回そうと思う。

戸袋+ピンズ+コーヒー豆=

今はどうだか知らないが、古の昔より大学生といえば麻雀に明け暮れ、喫茶店でダベるものと相場が決まっている。こちらの店舗はそんな需要を一度に満たすカフェーと雀荘という食い合わせ。
ツタをからめたバックライトチャンネル文字の看板がお洒落な喫茶店と雀荘という、コーヒーと牛乳のような真逆のハイコントラストの組み合わせながら、そこにちょっとしたシャレっけを加えることでカフェオレのようにマイルドな調和のファサードとなるから不思議だ。そう考えて見ると二階の壁もカフェオレ色だ。なるほどよくできている。
戸袋を麻雀パイに見立て、さらにコーヒー豆を加えるという二重のユーモアに拍手を送りたい。
そういえば筒子(ピンズ)のイーピンはスターバックスコーヒーのロゴに似ている。

棚に上げましょう

ややセリ出た二階部分の下、奥まった一階店舗である。本来ならば看板を取り付けるスペースがやや心もとない立地である。
こちらの店舗では問題を解決するため「棚」のようなパーツを設けることで中二階めいた空間を創出、上に看板を“載せる”という匠の技を魅せている。
本来であれば取り付けられなかったであろう、一階部分に収まりきらない「口福」の文字が映える。

問答無用の金色蛸

ファサードそのものにペンキで文字を殴り書きしたような荒々しい店構えである。 大通りに面した立地にも関わらずどこか漂うアングラな雰囲気は、いかにも学生街の店らしい。
開業時間も定休日もシャッターに書かれていない 甚だ不親切な店舗デザインだが、こういういい意味でも“雑な”店は学生街では往々にしてみる。ほとばしる熱いパトスを感じる。
なお肝心の「中ズルムケBar」がいかなる形態のバーなのか、残念ながら前を通った昼夕二回ともシャッターが下りており、うかがい知ることはできなかった。

ハートは万華鏡

これもショーウィンドウ型看板だが、素材を工夫することで見ごたえのあるものになっている。
アクリルの代わりにフレネルレンズ、いわゆる板レンズがはめ込まれており、前を通ると光の屈折で内部の人工観葉植物がユラユラと踊って見える。かなり珍しい看板だ。
なのだが、写真で見ると全く面白さが伝わらず歯がゆいことこの上ない。
これは是非現地に足を運んで見てもらいたい。

折れ曲がる無愛想

普通、ソデ看板とランマ看板はそれぞれ独立した看板である。
しかしこちらの店舗では一心同体。ロゴマークがそのまま看板になったようなデザインで、二つの看板が一つになっている。
気になるのは反対側からみれば「ぶ」しか見えないのではないかという点だが、それも含めての「ぶあいそ」なのかも知れない。

計算高きロマンチック

夏の思い出を拾い集めたようなロマンチックな店名サインである。一瞬寒さを忘れそうだ。
通行人への訴求や広告目的ではなく、店舗演出として割り切ったタイプの看板であり、それ故にセオリーに縛られない自由な素材選びと演出になっている。
開放型の店舗では店先に並ぶ商品自体が看板となるとも言え、看板的な役割をそちらへ任せた戦略なのかも知れない。見た目によらず計算高い看板なのではないだろうか。

トワイライト・メロンパン

まずは正面の大メロンパンに目が行くが、隣のアクセントとしてさり気なく店名に華を添える小メロンパンが可愛らしい。
レッドカーペットのような高級感あふれる緋色の背景に、金色に輝く店名とメロンパンのゴージャスなコントラストが白い壁面に映える。ともすればチープにもなりかねないスポットライト式の照明が、立体造形と組み合わせることで文字通りのスポットライトとして高級感を醸し出す小道具として立ち上がってくる。組み合わせによる演出の妙はまったく見事の一言。
余談ながら食品系の立体造形看板は、その大きさから一般的な食品サンプルとは素材も整形ノウハウも異なり、食品サンプル業界のそれとはまた別の奥深い世界があるらしい。

二階席へご案内

間口の広さは視認性のみならず、店舗の気安さ、入りやすさとほぼイコールである。一階しかない店舗でも“二階”にあたる部分の建物壁面にフェイクの窓を作って店舗を大きく見せる演出をよく見る。
こちらの看板では、障子戸を抽象化したような意匠で看板自体を二階席のように演出している(と思われる)。
思うにこちらの店舗は居ぬき物件であり、店舗演出として手を加えられる箇所が看板部分しかなかったのではないか。
できることが限られる中、看板の本分を忠実に果たしつつ 半ば看板の領域から外れ店舗演出まで担うという大胆さ。まさに天晴だ。

落ち着いて見えて?

ラスベガスやブロードウェイのBARなどを彷彿とさせるアメリカンムービーでレトロ調な電飾看板がまず目を引く。オーニングは張替え中なのか、あえて骨組みだけを残す演出なのか。
特筆すべきはファサード中央のスタンド看板。路面店ではあまり見かけないタイプである。複合商業の吹き抜けのあたりに鎮座していそうなデザインだ。ちょっと場違いなようでいて、それでいながら浮いているということもない。埋もれすぎず主張しすぎない絶妙な塩梅である。
さらに目を凝らせば、袖看板、欄間看板、チョークボード、スタンドサインが複数に、店名の書かれたマットと、落ち着いているように見えて その実かなり主張の激しい店構えであることに気づく。実は肉食系だった理系女子のようだ。

“躙口”の入り方

室町時代の茶人、千利休らによる「草の茶」の思想を体現した草庵茶室を彷彿とさせる入り口の店舗である。
鉄板に挟まれたソデ看板の象嵌文字もわび・さびを想わせる風情がある。
看板は目立たなければいけないが、街並みや店舗から浮いてしまっては意味がない。「強くなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」とは、往年のハードボイルド小説家・レイモンド・チャンドラーが生み出した探偵・フィリップ・マーロウの言葉だが、こと看板にも通じる固ゆでな格言である。


学生街は特別な街だ。商店街とも繁華街とも、観光地や住宅街とも(そもそも住宅街に看板はあまりないけど)違う独特の雰囲気がある。 街の構成が4年ほどで完全に入れ替わってしまう学生街は、常に流動的で活気に満ちつつも、やはり街ごとの特性があるように感じる。 変わり続けながらもアイデンティティを保つ、いわば景観の新陳代謝とでもいうのだろうか?

次回は個性の強い街の看板を観察してみようと思う。

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