不燃塩ビのカラクリ、前編

初回は、看板の不燃材料について、筆を執りたい。周知のとおり、日本では建築基準法第66条【①】により、「高さ三メートルをこえる」「屋上に設ける」防火地域内の看板は、不燃材料で造る、または覆う義務がある。

① 建築基準法 第66条
防火地域内にある看板、広告塔、装飾塔その他これらに類する工作物で、建築物の屋上に設けるもの又は高さ三メートルをこえるものは、その主要な部分を不燃材料で造り、又はおおわなければならない。

不燃材料とは、建築基準法施行令第108条の2で定める技術的基準【②】に適合するもの。加熱試験の時間に応じ、3ランク【③】に分かれる。

② 建築基準法施行令 第108条の2(防火材料の条件)
第1号 燃焼しないものであること。
第2号 防火上有害な変形、溶融、き裂その他の損傷を生じないものであること。
第3号 避難上有害な煙又はガスを発生しないものであること。
※建築物の外部仕上げに用いる場合は、第1号、第2号の要件を満たしているもの。

③ 過熱試験の時間に応じた防火性能
不燃性能 :加熱開始後20分
準不燃性能:加熱開始後10分
難燃性能 :加熱開始後5分

ここまでは、専門誌などでも随分と触れられてきた内容であろう。しかし、最も重要と言える試験の判定方法に関しては、ほとんど論じられていない。そこで今回から複数回にわたり、防火認定の試験判定について触れたい。

判定方法には、2つの大きなポイントがある。それは「総発熱量が8MJ(メガジュール)/ ㎡以下」「防火上有害な裏面まで通過する亀裂及び穴がない」という2点。一見、何の違和感もなく読める内容だが、言い換えると8MJ/㎡以下の熱量で、裏面に亀裂や穴がなければ、防火認定材料となるのだ。

とまれ、条文や数字を並べただけではイメージが沸かない。もっと身近で具体的な話に変えよう。現在、看板業界に不可欠な塩ビ粘着のIJメディアは、メーカー別にさまざまなグレードや種類が市場で販売されている。

これらは、法定不燃材料の国土交通省告示第1400 号【④】に定められた下地材との組み合わせにより、不燃認定を取得。防火性能を確保するためには、粘着面を持つ塩ビメディア、インク、ラミネート(有無)と下地材との組み合わせでの試験が義務付けられている。

④ 国土交通省告示第1400号「不燃材料を定める件」
1. コンクリート
2. れんが
3.瓦
4. 陶磁器質タイル
5. 繊維強化セメント板
6. 厚さが3㎜以上のガラス繊維混入セメント板
7. 厚さが5㎜以上の繊維混入ケイ酸カルシウム板
8. 鉄鋼
9. アルミニウム
10. 金属板
11. ガラス
12. モルタル
13. しっくい
14. 石
15. 厚さが12㎜以上のせっこうボード(ボード用紙原紙の厚さが0.6㎜以下のものに限る。)
16. ロックウール板
17. グラスウール板

そもそも塩ビは、他のプラスチックと異なり、難燃性や自己消火性に優れている※2。何とも矛盾した話だが、燃えにくいがゆえに熱量が止まり、無機化合物の配分を高めるなどの生産コストを投じなければ、優に8MJ/㎡を超えてしまうのだ。では何故、国内市場に不燃認定を取得した塩ビメディアが数多く出回っているのか−。次回は、そのカラクリについて、筆者の見解を示したい。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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