脱塩ビ・脱炭素・脱プラ、上

今回からは、脱塩ビ・脱炭素・脱プラ、それぞれがイコールでつながらないのに、混同されている現状について、問題提起をしていきたい。あくまで、私個人の考え方であって世界共通の常識ではない点は理解いただきたい。 

本題に入る前に、11月に英・グラスゴーで開催された「COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)」に触れたい。ここで日本は、残念ながら昨年に続き2年連続で、温暖化対策に後ろ向きな国として「化石賞」に選出された。 

その理由として、日本は化石燃料による発電が多すぎる点が挙げられている。だが、これは少し違うと私は思う。なぜなら、広大な土地を持つ欧州は、高い山や長い川も多くあり、水力または風力発電で電力を確保できるだけの地形条件がそろっている。逆に、狭い土地の日本は、山で囲まれた小さな平地や短い川ばかり。このため、原子力発電が世界で最も進んでいたものの、2011年の東日本大震災以降は、どれだけ環境に優しいと分かっていても、安全とは言い切れない原子力に頼ることはできない。 

無理矢理、この狭い国で風力発電を本格化させようとすれば、民家の近くでは騒音が問題になり、海沿いでは風光明媚を損なうと言われてしまう。そして、水力発電に切り替えるにも、短くて急な川しかないなか、どのように電力をまかなうのだろう。一方、太陽光発電ではどうか。地方の集合型ソーラーパネルにしても、海外に比べたら設置する場所が非常に狭く、期待は薄い。 

こうなると、日本が電力を確保するために、石油や石炭による火力発電に頼らざるを得ないのは、必然ではないだろうか。さらに、自然エネルギーを発電する場所も問題だ。例えば、人の住んでいないような僻地で発電した場合、送電線が長距離に及ぶ。そのロスを考えると、本当の意味で熱効率が良いのは、日本の地形だと火力発電になる。 

なぜ、このような話から入ったかと言うと、脱塩ビに対する問題提起のためだ。業界の主要商材である塩ビは、非常に耐候性に優れ、プラスチック系のサイン材料のなかでは最も炭素を排出しにくい。脱炭素を進めたいのなら、むしろ塩ビは推奨されるべきだ。このように、脱塩ビと脱炭素はイコールでつながらない。

では、なぜ脱塩ビなのか。その前に塩ビの生産量について触れると、日本が世界で最も多く、トップの座は固い。これに続くのは米国と独国になる。しかし、欧州と言えば、 脱塩ビの動きが非常に顕著。理由としては、REACH規制などで塩ビに制限をかけ、これ以上の日本のシェア拡大を防ぎ、欧州の経済を守ろうとする考えが根底にあるのではないか。日本は、発電関連の話と同様、海外の意図に踊らされ過ぎているようにも感じる。  

また、頻繁に耳にする環境に対する悪影響にしても、塩ビが環境配慮型であると証明する論文は少なくないものの、その一方で環境ホルモンの問題などについて、本当の意味でエビデンスの取れている資料はあるのだろうか。私はつまるところ、脱塩ビとは何なのだろうかと投げかけたい。

しかし、悲しいかな、グローバル展開をする以上は、脱塩ビは付いて回る。世界の新しい産業や商流はほとんど欧米から生まれるからだ。このため、大手企業は同地に本社を構える傾向が強く、内需の小さい日本企業はことさらになる。どうして塩ビが悪いのか、しっかりと調べ尽くした上で、脱塩ビを推奨する日本人は果たしているのだろうか。つまり、海外進出のためだけの脱塩ビに陥っているように、私は思う。 

塩ビが本当に悪いのか。次回は、塩ビの抱える課題を補足した後、脱炭素に対する私見を投げかけていきたい。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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