日本ならではの「理念的SDGs」と「ビジネスSDGs」

今年初の本連載となった前回は「2024年の業界予測」として、建設ラッシュによる短納期化の加速や、円安に伴うサイン資機材の高騰継続、縮小する屋外の大型・電飾サイン、これらの課題に対してどう向き合っていくべきか、私なりの考えをまとめた。それでは今回は、ガラパゴスシリーズに戻り、この第2弾として「日本ならではのSDGs」をテーマに話を進めていきたいと思う。

先に結論から述べると、2024年現在の日本は「理念的SDGs」と、「ビジネスSDGs」との両極端化が顕著に進んでいる。前者は、自社が推進する取り組みを明確にし、本来のSDGsの理念に則った行動を顧客へ提案している企業を指す。後者は、クライアントや市場からの抽象的な要求に対して、曖昧にSDGsへ紐付けてしまっている取り組みで、このような企業が意図せずとも非常に増えたように感じている。

例えば、顧客から再生PETでつくったポリエステルクロスでの製作物が欲しいと言われたとしよう。その要求に対して、安易にローコストな海外製の再生PETで応じた際、本連載で何度か触れたように国外のごみを日本に持ち込んでいるだけではないだろうか。加えて、再生材のリサイクルには注意点も多く、その材料が使用後に再利用できなかったとしたら、再生PETを採用した意味は国内では全くなくなってしまうと言っても過言ではない。こういった点に気付かないで、知らぬ間に「ビジネスSDGs」に陥っているケースが少なくない。

とは言え、何も筆者は「ビジネスSDGs」を単純に否定するつもりは毛頭ない。私が一石を投じたいのは、買い手も売り手も分からないままに、SDGsウォッシュへと陥ったり、逆に非循環を後押ししてしまったりと、日本の抱える潜在的な課題に対してなのだ。

そもそも、「ビジネスSDGs」の目的はユーザーのニーズに応えることにあり、コスト優先のなかでメーカーの謳うSDGs商品を提案する。一方で「理念的SDGs」は、根本的に使用後のリサイクルも含めた全体の循環まで見据えたもので、クライアントは価格よりも品質を重視する傾向にある。現在、市場や顧客からのニーズは大きく2つに分かれているため、どちらかが悪いと断定するのは現実に則していない。しかし、この2つの違いを提案側が明確に理解していないと、同じ土俵で競うべきではない両者を混合してしまう。これがあやふやで、価格競争のSDGsをベースとしているのが今日のサイン市場ではないだろうか。つまり、このまま行くと、持続可能な社会を目指す「理念的SDGs」が業界から淘汰されかねない。

他方、欧米ではリサイクルありきでものを考えるため、サステナブルや環境負荷の低減に取り組める材料を採用するのが根底となっている。これに伴い、競争はリサイクルできるもの同士で起こり、価格が全ての判断基準とはならない。また、日本の若者に目を向けても、小さい頃からSDGsを学んできているため、就職先を選ぶ際にもサステナブルな取り組みに注力しているか、ダイバーシティ経営を推進しているか、QOLの向上に努めているか、そういった部分を大切にする。SDGsに対する理解度の高い欧米や、日本の若者から見た時に、同じ土俵で異なる考えのSDGsが混在する状況は、果たしてどのように映るのだろうか—。

代表的な例として、日本独自のSDGs認証では「貴社が今やっていることのココがSDGsの何番の目標に当てはまります」という言葉をよく聞く。本来はSDGsの何番の目標に共感したから、我が社はこのようなことをやろう! ではないだろうか? これだと、自ら自分を追い詰めているように個人的には思えてならない。ともあれ、リサイクル、もといサステナブルの理解に努めなければ、ないまぜのビジネスSDGsへと引っ張られてしまうのが現状なのだ。

今後の人材確保を考えても、ビジネスSDGsと理念的SDGsへの理解と区別、ダイバーシティ経営やQOLの向上など、さまざまな考えを認め、取り入れていく姿勢が肝要だ。サステナブル、ひいてはSDGsに対して若者の目は聡い。明日を担っていく若き人材は今の業界に将来性を感じるか、私たちの推進しているSDGsを広い視野で省みたい。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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