脱塩ビ・脱炭素・脱プラ、下

前回まで触れてきた、脱塩ビ・脱炭素・脱プラの意味の混合。そのどれを推進するかによって、本来は取り組むべき内容が全く異なると述べてきた。世界的に推進されているのは脱炭素で、その目的である地球温暖化の抑制を最も重視するべきだと私は考えている。今回は、業界におけるカーボンニュートラルについて、所見をまとめてみたい。

カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの「排出量」 から、植林や森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを指す。つまり、CO2を全く排出しないという意味ではなく、その吸収作用を保全および強化していくことが重視される。

ここでひとつ例を挙げたい。昨今、プラスチック製ストローを廃止し、紙製ストローを採用する店舗は少なくない。これは、あくまで海洋プラスチックごみを減らし、海と生物を守るための取り組みだ。しかし、ストローを紙製に切り替えれば、脱炭素にまでつながっていると勘違いする人は非常に多い。

紙を生産する上で、一番早く育つ植林はユーカリだが、それでも10年ほどかかる。冗談でもなく、10年も持つストローなど存在しない。5分、10分ぐらいで使い切るストローをつくるには、最低でも10年は木を育てないといけないのに、世界中の人が紙に切り替えたらどうなるだろう。カーボンニュートラルの視点で見れば、ストローをつくるために、CO2を吸ってくれる木をどんどん伐採し続けるのは、地球温暖化を加速させているとも捉えられる。

この事例を業界に置き換えてみよう。例えば、屋内外で10年間、紙系メディアを掲出し続けるのであれば、その間に木が育つから、まだ良い。しかし、3日間の掲出で紙を使えば、ただ単に木を伐採するのと変わらない。だったら、プラスチックを使ってサーマルリサイクルに回す方が、脱炭素に寄与できる。

少しばかり、サーマルリサイクルについて補足する。国内で、埋め立てごみ以外は単純に燃やすだけという方針の自治体は、極めて少ない。ほとんどは、ごみを焼却した際に生じるエネルギーを再利用する取り組みを行なっている。つまり、プラスチックでも燃やせるごみを出すというのは、リサイクルをしていることにつながる。燃やせない埋め立てごみを出すのが最も問題なのだ。

今までの業界は、燃やせないごみが99%と言っても過言ではなく、それを燃やせるごみに変えていくだけで、ごみのリサイクルに大きく貢献できる。前回も述べたように、塩ビシートだけなら燃やせるごみとして扱えるものの、アルミ複合板やスチレンボードに貼ったまま捨ててしまえば、燃やせないごみになってしまう。単純だが、それがリサイクルのできない業界となっている最大の原因だ。

今回のテーマで、私が述べてきた内容を噛み砕いて言えば、足元にある初歩的な問題解決から取り組もうと一貫して訴えてきた。それは何故か。今の業界は、みんなが手探りで「とりあえず環境に良さそうなもの」を何となく使っている状況だ。具体的な法の整備や国の指針も決まっていないなか、果たして誰がどのような根拠を持って、これから必要とされる資機材を推奨できるのか。その方向性に間違いでもあったら、全てが使えなくなってしまう。

現時点では国としても、カーボンニュートラルによって、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、と大きな目標は掲げているものの、「まずはプラスチックを分別して捨てましょう」と訴えかけているレベルにある。その次の段階を明確に示すのは、ひとつひとつをクリアにしてからになろう。このようななか、国のエビデンスなしに、環境配慮型と謳われるメディアに大きく舵を切るのは大きなリスクに変わる。

結びに、SDGsの意味の曲解を投げかけたい。商品そのものはSDGsではない。鍵になるのは、それを売っている人や使っている人が、SDGsの理念に対していかに共感し、活動しているかだ。

SDGsに貢献するという考え方を持っている企業が、17のゴールに即した商品を提供していく。その商品によって、製作会社は環境負荷を減らしたり、安全なまちづくりに取り組んでいく、この姿勢がSDGsに当たる。具体的には、地震はもとより、風速100mの台風でも落下しない看板をつくるような姿勢だ。まとめると「どう考えて行動していくのか」、この観点が最も大切になる。

そして業界は、SDGsと環境を同義として捉え過ぎている。ひとつ看板が売れたら100円を寄付するだけでも、SDGsに貢献できる。それなのに、環境に良ければSDGsになると考える人が余りに多い。その「環境に良い」というフレーズも、国や地域の違いを考えれば一口に言えないと述べてきた。そして、脱塩ビ・脱炭素・脱プラは一緒くたに解決できるものではない。繰り返す、まずは目の前の出来ることから取り組むべきだ。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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