宮崎県日南市の北郷小中学校を今春に卒業した中学生5名が3月、地域活性化を目的に、地元観光地である「北郷温泉」の看板を製作。新たに開通した高速道路正面と北郷温泉近くの2カ所に設置され、同25日に除幕式を開催した。
この取り組みは、同校の伝統となっている卒業制作の一環。34名の生徒が5班に分かれ、地域の魅力を発信するために何ができるかを考え、”北郷応援団”として提案するという。さまざまな取り組みがあるなか、1班が北郷温泉の看板製作を選んだ。
北郷温泉は昔、市民が天然ガスを掘りだそうとした際に、偶然掘り当てたのをきっかけにできた温泉であり、古くから地元の人たちに愛されていたそうだ。今回、近隣に新しく高速道路が開通した経緯もあり、地元以外の人たちにも親しんでもらうために、道路沿いへの設置を提案したのだと、生徒たちは意気揚々に話してくれた。
さっそく地元の印刷会社に依頼し、デザインを委託。ほどなくして設置にまでこぎ着けた。しかしこの班の挑戦はそれだけに留まらなかった。施設近くに看板を作った方がより効果が期待できるとの思いから、同時に別の看板製作にも着手していたのだ。もう一方の看板は自分たちでデザインをいちから考えて作成。木工所に依頼して、宮崎県名産品の飫肥杉(おびすぎ)を使用すると決めた。
美術の授業だけでは決して経験できない初めてのデザイン作業。限られた面積のなかでどんな色にするか、またどのように北郷らしさを表現できるか、スケジュールギリギリまで悩んだという。皆で相談し合った結果、山を表現する緑、春の季節らしい桜色の背景を採用。また、温泉という文字の上にある白い線は温泉と湯気を表現している。
細部までこだわった卒業制作。「実現に至るまでには、並々ならぬ生徒たちの熱意があったんです」と、担当教員は話す。このアイデアは、2年越しの悲願なのだと、当時を振り返りながら教えてくれた。
長きにわたり、学校の伝統として紡がれてきた卒業製作の歴史。しかし、2年前に当時の生徒によって同様の看板製作を提案した際は、予算の兼ね合いが合わず、却下せざるを得なかったのだという。それでも、生徒たちはあきらめなかった。そのかいあってか、今年は地元企業や大学からの協力や資金援助も得られ、予算の問題を解決。長年の生徒たちの姿勢が地元に認められた形なのではと、担当教員も破顔する。地域が一体になって、生徒たちのアイデア実現に一役買っているのだ。
3月25日、除幕式は資金提供された北郷支所と木工所関係者、北郷温泉関係者と北郷小中学校の卒業生(立案・製作者)5名で行われた。生徒たちは、1年間の活動報告と感謝の気持ちを伝えたという。
今回の件について、担当教員は、「新型コロナウイルスの影響で学校自体が閉鎖され気軽に会えず卒業式も行えなかったなかで、こうして無事に除幕式を実施でき、地域にちょっとしたエネルギーを与えられたのには、子どもたちも手ごたえを感じているのではないか」と目を細め、満足げに頷いた。