原材料の高騰について①

今回からは、連日報道されている原材料の高騰に対して看板業界はどのように向き合っていくべきか、私なりの考えをまとめていきたい。

一般的には、物流の停滞や地政学リスク、大幅な円安など複合的な要因によって、現在の価格上昇が起きているとされている。では、ウクライナ危機が去り、円高に転じ、物流が改善され、原油や金属など各種原材料の高騰が落ち着き、看板資材の値段が以前の価格に戻ることはあるのか。私はもう戻らないと予想している。

その理由は、20年ぶりにドル・円相場が130円前後の円安で推移するなど、日本の経済が世界のなかで急速に弱い位置付けに陥っているからだ。これは世界の経済の流れから、自然と円安が進んでいるだけなのだろうか? 人口減で外需依存に陥っている日本が、内需を取り戻すために海外の工場などを呼び戻そうとしている、そう考えられる節はなかろうか。だとすれば、今後も物価は上昇し、全てのものがよほど高くならない限り、日銀の金融政策は維持されるため、円高には転じないと言える。

続いて、業界の資材に不可欠で、生活にも直結する原油の高騰はどうだろう。平時の2倍近くにまで上がった一因は、ウクライナ情勢による地政学的リスクはあるものの、「脱プラ」「脱炭素」というキーワードの影響が最も大きいと考える。先進国の多くが「脱プラ」「脱炭素」を大々的に掲げるため、中東などの原油産出国は在庫リスクから採掘量を抑えざるを得ない。また世界的にESG投資が拡大しているため、石油メジャーや商社なども新たな石油採掘の開発に乗り出しにくい。

さらに、消費者の目に見えやすいものは、プラスチックから紙への切り替えが進むも、逆に目につかない箇所は金属からプラスチックへ置き換えられていくばかりで石油の活用シーンは大きく広がっている。つまり、需要と供給のバランスが大きく崩れているのだ。

要するに、世界的な「脱炭素」の潮流が変わらない限り、業界の主要資材であるプラスチックの価格は決して戻らないのだ。

次に、物流費に触れる。ガソリンの高値や働き方改革の影響による人件費高騰だけではなく、「小さい物をより多く運ぶ」という経営的な判断などにより、サイン資材の物流費は大幅に高騰している。倉庫も同じで、小さく回転率の良い物を1万個置くか、大きい物を100 個置くかを選ぶなら、倉庫業は前者を選択するため、需要の少ない後者に対する価格ばかりが高くなっている。大型看板や現在主流のサイン資材は大きい物が多く、物流コストは上がり続けていく。これらが本質的なことだと考えている。

このように、現状の物価高騰は簡単に解決できるものではない。さらに踏み込むと今までのデフレ脱却と働き方改革などによる、経費の大幅な増加で悪化した利益改善の取り組みも影響を与えている。

そして、コロナ禍から脱した生活へ移行して良いのか、逆に元へ戻ってしまうのではないのかと先行きが見えない現在、さまざまな産業で需要と供給のバランスが崩れている。全体の99%をサイン業界に販売する資材と、逆に1%しか売らない資材とでは、全く構造が異なる。例としては鉄骨が分かりやすい。建設業のような大量に購入するところから売られていくため、業界に回ってくる頃には在庫が少なくなり、少量を取り合った結果、仕入れ価格は2倍近くに高騰しているのが実態だ。

繰り返すが、高騰した看板資材の価格が元に戻ることはないだろう。おそらく、全てのメーカー・販売店が、年内にもう一度、商品によっては複数回の値上げに踏み切る。既に、損失を被れないところまできているからだ。看板屋も今は被れていても、材料費が上がり続ければ、必ず限界を迎える。そうなる前にどう材料高騰と向かい合い、どう対処すべきかを次回述べたい。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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