価値観の変化に対応するには

本連載では、これまで不燃・防炎・産廃の3つのテーマに沿って、現行の法令を示しながら、業界が抱える課題について触れてきた。コロナ禍で、旧態依然のビジネスモデルが通用しなくなりつつある現在。業界に関わる法令を正しく学ぶだけでも、顧客への新たな提案に結びつく、そういった考えから本連載がスタートした。自社の売り上げ確保に向けて、大掛かりな業務転換を模索する前に、まずは既存ビジネスの見直しが大切だと思う。今回は、不燃・防炎・産廃の連載を通して、筆者が伝えたかった点を振り返りたい。

ここからは、前回までのように法的な根拠を示すと難解になるため、ポイントだけをおさらいしたい。まず、防火認定の回では、法令上義務づけれられていない場所に不燃塩ビが多用されている点を指摘した。これが製作会社自らの判断だとしたら、リスクを嫌うばかりにさらなるリスクを呼んでいる。不燃は、決して燃えないのではなく、下地材の表面にあたる塩ビは燃えやすいものも多い。何より、どこもかしこも不燃塩ビと捉われていては、顧客への提案力が弱まるだけで、製作会社にとってデメリットにしかならないと伝えたかった。

次に防炎の回で主題としたのは、たとえ防炎製品であっても、インクジェットで出力加工を一度施せば、製作会社は「防炎製品です」と言えなくなってしまう点だ。顧客に対して、出力加工後の完成品を防炎製品として提供するには、日本防炎協会で製造事業者の登録をする必要がある。近年は書式の簡素化も図られ、あまり悩まずに作成できるため、登録の申請を強く勧めたいと述べた。ただ、残念ながら業界の現状は防炎製品に対する認定ラベルが、 出力加工したメディアに貼付されているケースも少なくない。知らなかったでは済まされない、この違法行為をひとつでも多く減らしたいとまとめた。

分かってもらいたいのは、筆者は不燃や防炎のマテリアルを否定するつもりは毛頭ない。ただ、近年はそれらの使用が義務づけられていない場所で、多用されてしまっている点に疑問を投げかけたかった。「とりあえず」の考えで不燃塩ビや防炎ターポリンを使っているのなら、あまりにもったいない判断のように思う。コロナ禍でマーケティングに対する費用対効果が厳しく見直されているなか、材料選択を放棄するのは自ら提案力を落とし、ひいては自社の売り上げを損なってはいないだろうか。

続いて産廃の回では、「ゴミは捨てるもの」という認識を見直してほしかった。塩ビの埋め立て処分がいずれ限界を迎えるなか、塩ビ以外のメディアまで当たり前のように捨てていいのだろうか。業界を挙げたリサイクルの仕組みづくりに向き合っていかないと、遠くない将来に大きな禍根を残すと危惧している。

 ここからは、前述した内容とつながる話として、SDGsやコロナ禍で生まれた価値観の変化について考えをまとめたい。まず、SDGsと聞けば、脱塩ビやリサイクルなどの環境配慮のイメージが定着してしまっている。しかし、SDGsは「持続可能な開発目標」で、例えば17ある目標の1つ目に掲げられているのは「貧困をなくそう」だ。日本も子ども7人に1人が貧困と言われているなか、サイン業界は何ができるかという視点に立つ姿勢が正しいSDGsへの貢献ではないか。例えば、子ども食堂をサインデザインで応援することもできる。ご飯を食べる場所というイメージだけでなく、親しみやすく、明るく、コミュニケーションの場だと連想できるような看板を提供していく。そういった取り組みこそが大切なのだ。

そして、コロナ禍で変化するさまざまな価値観。分かりやすいところだと、アクリルパーテーションが挙げられる。固定概念に捉われたままでは、切断面をピカピカになるまで磨くが、現在求められているのは飛沫感染防止のために一刻も早く納品することだ。このようなユーザーニーズを汲み取れず、頑なに従来の価値観を守ろうとする企業は、残念ながら仕事が減っている。レジ前の感染対策品も同様で、接客のしやすい製品開発を軽視し、不燃や防炎に捉われ過ぎて透明度を落としたものは、ほとんど売れていないのが実情。私たちは「街を彩る」業界として、自ら一歩踏み出してユーザーが現在何を求めているのか、そこに寄り添った柔軟な発想による提案が求められている。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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