北茨城市で石に文字を刻む石職人。石が見せる表情に心をつかまれた「石工」の32年にわたる職人人生と仕事への思いを追った。
美しさにのめり込み石職人の道へ

吹き付けた砂が飛び散るため、サンドブラストで加工をする。写真は、大型の作品も加工できる工場用のもの
「辞めようと思ったことはありません。生まれ変わっても石職人じゃないかな」
そう穏やかな目で語るのは神永石材で石職人を務める大場正人さん。瞳には芯の通った、職人としての自負が浮かぶ。
大場さんが石の道に足を踏み入れたのは1987年。街中に貼られた石職人募集のチラシがきっかけだった。
かねてより、モノづくりに携わりたいと思っていた大場さん。高級感ある石材の魅力に心をつかまれ、その道を志す。この時29歳だった。暇を見つけては、石の名産地である愛知・岡崎や香川・庵治におもむき、伝統職人のもとで教えを請う。勉強すればするだけ魅力に取りつかれていった。
「石は皆、表情豊かです。独特の石にしか出せない美しさにのめり込んでいきました」
それから10年ほど地元で職人としての腕を磨く。39歳の時、デザインの起こしから請け負うところに惹かれ、神永石材店への転職を決めた。

貼り付けたゴムシートに文字を書き、カッティングナイフやルーターを使って切れ込みを入れていく

サンドブラストで使用する砂には番数があり、数字が小さいものほど粒子が荒く、短時間で彫れるが仕上がりがざらついてしまう。大場さんは仕上がりを優先し、数字が大きい番数を使用している