3月13日、日本でのマスクの着用が屋内外を問わず「個人の判断」に委ねられた。厚労省でも、本人の意思に反してマスクの着脱を強要しないよう配慮を呼びかけている。今回は、長らく続いた新型コロナウイルスに対する感染対策がひとつの節目を迎えたのに合わせ、飛沫防止に使用されてきたアクリルパーテーションの今後の行き先にまつわる話をしていきたい。
このマスク解禁に伴い、次第に消毒スプレーや検温機も最低限の数に減らされていくと思う。そして、最も後始末に困るのが、コロナ禍で大量に出回った飛沫防止のアクリルパーテーションだ。これまでに、少なく見積もっても1万5,000トン以上のアクリル板が出荷されている。これらは、マスク解禁となった今夏に再び感染の急拡大でも起きない限り、無用の長物にしかならないだろう。さて、一部は保管するにしても、大量のパーテーションが不要となった際、それを納品した看板屋はどのような対応を求められるのだろうか——。
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基本的な話だが、アクリルは「熱可塑性樹脂」で、プラスチックに分類される。これらは、2022年4月施行の「プラスチック資源循環促進法(新法)」により、不必要な使用を避け、不可欠なものは徹底したリサイクルが求められるようになった。つまり、パーテーションはリサイクルして当たり前と考える必要がある。
基本的に、リサイクルは「マテリアル」「ケミカル」「サーマル」の3つに分かれる。ただし、最も手軽で身近なサーマルは、新法では推奨されておらず、最低限の取り組みとして位置付けられている。どうしてか、国が押し進める脱炭素の視点で考えてみたい。右の図を見れば分かる通り、サーマルでは多くの二酸化炭素を排出してしまうため、国の意向にそぐわないのだ。
それでは、サーマル以外のリサイクルを解説していきたい。ご存知の通り、アクリルは「押出板」と「キャスト板」に大別される。マテリアルが可能なのは、基本的に押出板のみで、キャスト板は不可能になる。このため、押出板はアクリルからアクリルへの再利用ができるものの、回数を重ねるほど黄変しやすくなるので、3回ほどで限界を迎えるという難点も。リサイクルに当たっては色の仕分けも必要になる。とはいえ、サイン業界では、「同じものを同じものに」というのが、最もユーザーに伝わりやすいのでマテリアルを好む傾向にある。
一方で、ケミカルは、種類や色はもちろん、その分子量も問わずにアクリルという存在であれば、何でも再生できる。簡単に説明すると、アクリルを熱分解し、化石資源を原料にした材料と同等の品質を持つ「メタクリル酸メチル(MMA)モノマー」に再生するのが、一般的なアクリルのケミカルとなる。つまり、どんなものからでも、好きな種類や色のアクリルを新品と同じ状態で再生できる。
このように、アクリルにとどまらず、プラスチック全般における理想的なリサイクルの方法は、塩ビにすら対応できるケミカルだと私は考えている。ただ、現状の日本は処理能力を持った工場が極めて少なく、キャパオーバーの状態にある。目下、さまざまな化学・素材メーカーが体制の強化に当たっているのでこれからに期待したい。
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今後は、顧客から「このアクリル板ってどこのメーカー? リサイクルできるの?」という声が看板屋に多く寄せられるだろう。マテリアル、ケミカルが可能か不可能かは、そのメーカーによって異なるのは念頭に置くべきだ。「不要になったから持っていってくれ」というような顧客も生まれるだろう。無下に断れずに引き取り、マテリアルもケミカルも不可能な製品だと、サーマルに回すか、地元の産廃業者に引き渡すかになってしまう。
業界にも不可欠なプラスチックは、今後一層に使用後のリサイクルが至上命題となっていく。それも、サーマルではなくマテリアルとケミカルが国からは推奨されている。取り扱う製品を選ぶ上で、使用後の回収・再生を念頭に置くのは非常に大切だ。繰り返し触れてきた通り、リサイクルに当たっての回収には、廃棄物処理法に基づく許可、または広域認定制度や新法における国からの認定を受けなければならない。結びに、改めてその点も念押ししておきたい。
文・髙木 蓮
20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。