2025年の業界予測

今回は編集部からの依頼で、2025年の業界予測について述べてみたい。毎年恒例になっているが、「読者からも好評です」という声を聞き、とても嬉しく思う。今後も、一方通行ではなく皆さんの声に応えるコーナーとしたいので、遠慮なくさまざまな業界に対する疑問を投げかけてほしい。

政策金利0.5%の利上げは
中小企業の利益に多大な影響

まず、日銀が24日に表明した政策金利0.5%の利上げが業界に与える影響を予測していく。17年振りとなる0.5%はバブル崩壊後2度目の最高水準で、次の利上げで年内に0.75%となる可能性もあり、現在働いている私たちには未体験ゾーンへ入る。この利上げはサイン業界にとって、とてつもなく大きな問題と考えている。現在の長期借入(固定金利)には影響がないものの、資金繰りのための短期借入や今後の設備投資に向けた長期借入には多大な影響を及ぼすだろう。

特に、業界は中小企業が多いため、運転資金を短期借入に依存している企業にとっては、今までほとんど気にしなかった金利を懸念しなければいけなくなる。金利上昇は、そのまま利益に直接影響を及ぼすことから、利益を確保するための価格転嫁は、とりわけ今まで以上に業界を上げて取り組む必要があると強調したい。1社対1社の値上げ交渉だけではエンドユーザーに受け入れられないなど、弱者が泣きをみることは間違いないからだ。

【補足】
帝国データバンクは1月24日、日銀の政策金利0.25%から0.5%への利上げを受け、レポート「日銀の追加利上げが企業に与える影響度調査」を発表した。

これによると、企業の借入金利が0.25%上昇した場合、1社当たり平均で年間68万円の支払利息負担が新たに発生し、経常利益を平均2.1%押し下げる見込み。また、経常損益が黒字から赤字へと転落する企業は調査対象9.6万社のうち、約1,700社・1.8%発生する試算となった。今後、さらに追加で1.00%(現状+0.50%)まで引き上げられた場合、利息負担は年間135万円の増加、赤字へと転落する企業は約3,500社・3.6%の規模まで膨らむ可能性がある。現状の企業財務面では、頻繁な利上げや大幅な引き上げ幅に対する耐性の低い企業が少なくない点は、今後の利上げによる影響を見る上で引き続き注意すべきポイントだとまとめている。

2025年もインバウンドはより拡大
一昨年から続く建設ラッシュも加速

次に、インバウンドについて触れたい。政府の発表によると、2024年は訪日外客数が3,686万人に達し、過去最高だった2019年を500万人も上回った。2025年も、4月開幕の大阪・関西万博をはじめ、9月の東京2025世界陸上や、春夏秋の瀬戸内国際芸術祭などイベントは盛りだくさんで、この勢いが継続するのは間違いない。私も、実際に全国各地を訪れると、どんな地方に行っても外国人観光客を必ず見かけることに驚く。

都市部の再開発はもとより、地方で不足する宿泊施設、観光や飲食業の国内投資が継続する見込みからも、一昨年から続く建設ラッシュはインバウンドに牽引されながら、さらにより加速していくと予測できる。

依然として不安定な国際情勢
樹脂や金属など原材料の不足を懸念

続いて、国際情勢を見渡した際に外せないのが、ウクライナでの戦争だろう。トランプ米大統領がロシアに対し、終結に向けて圧力を強めている目下、その後どうなるか私見を述べていく。

日本の1.6倍に当たる国土を領するウクライナが終結後にインフラの整備へ動き出した時、樹脂や金属といった資材は世界の至るところから寄せられるのは想像に固くない。それこそ、EUはその威信をかけて復興に臨む。この世界規模の一極集中で、多くの原材料が不足していくと考えられる。サイン業界でも欠かせない樹脂・金属は、大幅な値上げだけでは済まず、そもそも入手困難に陥るのではないか——。ともあれ、筆者も1日も早い戦争終結と復興を心から願う。

原材料と人手不足で切り替わる商品選定
機械には仕事の末端を任せてDX化

2025年は、サイン業界が大きく変化する過渡期になると予測する。理由として、先ほど述べた原材料不足が本格化すると、今までのように安い・高いと言っていられなくなる。この結果、手に入る(在庫がある)ものを買わざるを得ない状況に陥る可能性が高いからだ。また、極端な人手不足により、今まで以上に易施工品が重宝されていくと思われる。プロが時短できる省力化・省人化を図った商品、さらにはファブリックや貼るだけの簡易施工タイプなど、施工に慣れていない一般の人でも取り付け可能なサインが選ばれていくのではないか。

当然、環境や安全に配慮したサインも、今まで以上に求められていくだろう。設置期間や場所、コスト、そしてクライアントのニーズなど、今まで以上に多種多様な材料と製作方法でサインを提案していく必要がある。

その上、慢性的な人材不足を考慮すれば業務効率化も、もっと押し進めたいところだ。例えば、大判プリンターは便利な遠隔操作の機能が実装されているものの、日本では最初の数平米を目視したいからと実機の前で待機する人は多い。目の前にいるならば、その場でボタンを押した方が早いため、ほとんどクラウドサービスを活用できていない。そもそも日本のDX化は、自分の代わりに物事を考えてくれるものだと思って生成AIを取り入れ、デザイン・設計ひいては経営を委ねようとする人が余りに多い。

そうではなくて、AIには仕事の末端を任せるのが基本だ。あくまでIJPの設定といった指示は自ら出し、その後の連続出力や加工は機械に任せ、作業と呼ばれる仕事は可能な限り少ない人数と手間で効率化していくことをベースにしたいところだ。

サイン業界が過渡期を迎える2025年
流動する市場を先読みしてチャンスへ変える

2025年、私たちは変わっていかなければいけない。働く環境を変えていき、QOLを重視する若い人材に少しずつでも業界に興味を持ってもらう。一点物のサイン製作もこだわり過ぎるのではなく、その時間とコストを見直して最適化を図っていく。

現在の材料や製作方法が継続してエンドユーザーから受け入れられるという考えは捨て、幅広い情報収集と分析、そして行動へ移す。市場環境に振り回されるのではなく、目まぐるしく流動するからこそ、先回りしてチャンスへと変えられた時の優位性は計り知れないと強調したい。

    文・髙木 蓮
    25年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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