サインを肴に立ち返って【後編】

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三浦:超高齢化社会の2025年問題を迎えた現在、サイン業界でも再編が進んでいくと想定した際に、これからの人手不足へどのように向き合っていくべきでしょうか?

髙木:令和の経営者にとって、従業員の給与を上げていくという考えは至極当たり前です。次から次へと人が入って来ない以上、1人ひとりを大切に育て、それこそ中日ドラゴンズ時代の落合監督のように、人材を適材適所でフル活用していかないと立ち行かないですよね。

三浦:確かに(笑)。言葉を濁さずに話すと、もっと稼ぎたいと独立を考える社員の背中を押すような、長年続いた業界の構図はもはや通用しないのかもしれません。とはいえ、現状ですと人を増やし、育てていくことに注力しているのは、大手や中小の一部に限られるようにも見えますが……。

髙木:その理由は、経営者が現状維持で満足するか、しないかだと思います。これ以上、会社を大きくする必要もなく、家族の生活が成り立てば良いという考えも理解できますし、決して否定するつもりはないです。ただ、人材に対する考えが極端に二分しているのは事実だと思います。それが自ずと企業規模とも比例している点は、確かですよね。

三浦:なるほど。とはいえ、業界のマジョリティは家族経営企業ですので、今後の行く末が少し心配になりますね。

話は変わりますが、最近の傾向としてどのような素材ひいてはサインが求められていくと感じていますか?

髙木:(前号で)先述した通り、既にチャンネル文字は専門メーカーが製作し、IJ出力も同様の傾向にあります。少しずつ淘汰と再編が進むなか、看板屋さんの製作領域も減ってしまうでしょう。こうなると、次に何が起きるか。複合板にシートを貼るような、材料をたくさん使う仕事は、確実に今後少なくなる一方だと思います。樹脂や金属を多く使うサインは減り、シンプルなものが顧客から好まれるようになると言い切れます。

理由として、看板の仕事のほとんどを占めるチェーン店は、コストを下げるために例えば箱文字だったら金属ではなく、カルプで十分だと考えます。個人店も、カルプ文字のチェーン店が行列を呼んでいる光景を見れば、自ずとウチも同じようにと考えがちですよね。それと顧客の安全意識も高まっているため、軽量で安心なものを求める点も理由として挙げられます。

三浦:確かに、「カルプの引き合いが今になってまた増えた」、そんな声は最近頻繁に聞きますね。加えて、チェーン店が看板にコストをかけるのは稀で、本当に薄利で大変だという話は多いです。それに、現在は運送費の高騰もありますよね?

髙木:そうですね。当たり前ですが、ロールを1本送ると1,000円近くかかりますけど、一方でまとめて10本送れれば1本当たり200円くらいに抑えられます。ですから当然、海外のようにひとつの工場で出力を網羅したり、全国に拠点を構えたりするなど、運送費を含めたコストダウンの仕組みを、先読みする経営者は繰り返し考えるのです。実際にそういった動きが生まれているから、淘汰も進んでいると想定できますよね。

三浦:そうですね。率直にお話を聞くなかで、私たちサイン業界を待っているのは茨の道のようにも思えてしまいます。安直な質問ですが、もっと明るい業界と言いますか、まとめると今後はどんな姿勢が大切だと思いますか?

髙木:本稿でも繰り返し触れてきましたが、「よく指定されるから」「懇意の問屋さんが勧めるから」、こういう理由で材料選定をしている場合は、その習慣を変えるだけで違うと私は思います。顧客ひいては時代の流れに合わせた選択を経営者自らで行い、責任を持つ姿勢が大切ではないでしょうか。昨今伸びている企業は、施工後の補償も含めて当たり前のようにしています。

現状ですと、業界展に来場して看板屋さんが新しい材料の購入を決めるケースは、年々少なくなっている印象です。それは、ここまで話してきた淘汰と再編の影響もあり、“材料を選べる”会社が減っているためではないでしょうか。

三浦:逆転の発想ではないですが、市場を大きくするという考えに立つと、看板屋さんが主体になって出展したら可能性も広がるのかもしれませんね。

髙木:そうですね。もっと多くのエンドユーザーにさまざまなサインを知ってもらい、興味を抱いてもらう、そんな主体性を大切にしていければ、業界の活性化につながっていくと思います。

    文・髙木 蓮
    25年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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