原材料の高騰について②

前回からは原材料の高騰に触れ、値上げされた看板資材の価格が元に戻るとは考えにくい理由をまとめた。それでは、今回はどのように材料高騰と向かい合い、どう対処していくべきか、私の考えを述べていきたい。

まず、看板屋は常連客と、普段どのような値段交渉をしているのだろうか。最も多いのが、顧客から「5年前につくった看板を同じ料金か、もう少し安くつくってほしい」と言われ、「それは昔の話で、今は材料費が上がっていますから……」と答えるケースではないか。しかし、これは厳しい言い方をすると、5年前から提供する商品・サービスが向上されていないと言えるのではないか?

コロナ禍の現在も看板屋は、「同じものを壊れないようにつくる」、それこそプロの仕事だという意識が色濃く残っているように感じる。これは決して悪いとは言えないものの、現在のように仕入れ値が上がってしまえば当然儲かりにくくなる。そして、コロナ禍に見舞われてからは、さまざまな情勢が著しく変化を遂げる一方で、看板だけは昔のままというのは通用しにくいのではないか。

昨今の内情を鑑みる例として、LEDは誰しも電源別置きの方がリスクは低いと分かっていながらも、ほとんどの看板屋は簡単に施工できるAC100V直結タイプを選択する。もっと言えば、モジュールを敷き詰める作業が面倒だから、直管型LEDを選ぶという理由も少なくない。要するに、自ら楽な方を選択し続ければ、完成品に近いものばかりを仕入れる結果を招く。これでは、利益率はどんどん圧縮されてしまう。

この利益率よりも手離れを重視し、次々に仕事量を増やしていくビジネスモデルは、広告代理店に近い。この手法で事業を拡大させていくには「提案力」が欠かせない。仮に提案力に突出した優位性を持たなくても、成長傾向の市場ならばある程度は通用するが、コロナ禍とあっては広告に関わる仕事は当然減る。そうなった際に提案力で広告代理店と張り合えないなら、単純に自ら大切な利益を手放す結果に陥っている。

話は変わるが、基本的にビジネスは特別品から一般品まで三角形を描いていき、次第に裾野が広がっていく。家電、自動車、食料品など、ほとんどの市場に当てはまる。しかし、看板はこれに該当しない。特別品と呼ばれるものが普及し、富士山のように裾野も広がったケースは極めて稀だ。仮に、特別仕様の看板が生まれても、すぐ価格の叩き合いに陥る。この特別品に対抗するため、技術力や仕上がりで勝る同等品を提案する、もしくは新たな特別品を生み出す訳でもなく、単に他社より安く、最悪なのは一般品と同じ価格で販売をしようとしてしまう。

もし、屋外広告に惜しみなく予算をかけようとする企業があったとしよう。とはいえ、「見たことのない看板なら、いくら予算をかけてもいい」と言われても、「前例のないものをつくってクレームになったらどうしよう」という怖さは拭えない。屋外の長期媒体であればなおさらで、その気持ちは十分理解できる。では何ができるか、前例のない看板はつくれないにしても、使ったことのない材料で同じものをつくるチャレンジはできるのではないか。例えば、今であれば環境配慮型の材料に挑戦し、顧客に対して「従来品に比べれば価格は上がりますが、リサイクルできる看板を提供できるようになります」と提案する。最初の数社は、安い方で良いと言う顧客ばかりかもしれない。

しかし、そこで断念するのではなく、さまざまなクライアントに粘り強く提案し続ける、これが最も大切だ。もっと言えば、そういった取り組みを1社でも多くの看板屋が行い、少しずつでも評価するクライアントを増やしていく。そうして業界を引き上げていかなければならない。今は割高な環境配慮型の材料も、普及が進めば自ずと物量も増えるため、安く仕入れられるように変わる。そして、新しい製品開発も進み、もっと特別仕様の材料が生まれ、今の材料はより安く手に入るようになる。このように、裾野を広げていける業界に変えていくべきだ。

結びに、そもそも看板とは絵を描くもので、戦後多くの絵描きが看板の職に誇りを持っていた。現代の我々が思っているよりも、この仕事は芸術の領域にある。ひとつの作品を自由に生み出す仕事の担い手なのだ。「アート」の価格とは、買い手の評価によって決まるものだ。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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