広告業のビジネスサイクル

今回は、広告業のビジネスサイクルについて、私個人の考えをまとめてみたい。どうして時間軸の話をするかと言うと、広告業のなかで特に看板業は、世間一般の考えと掛け離れてしまっているからだ。これまで本稿で述べてきたコロナ禍云々の問題ではなく、ずっと以前から時間の軸が、自分たちのままになっている。

最初に、媒体を問わず商品広告を見ている側、つまり消費者が求める目線になって考えてみたい。もちろん、消費者は広告を見た後にすぐ買いたい、今から2〜3カ月後に発売されるのが楽しみなど、24時間現在進行形で最新の情報を欲している。言うまでもなく、販売中止や在庫切れを起こしている過去の商品広告に需要はない。

次に、売り手である広告主は、今から3カ月、半年以内に売れるモノ、稼げるモノをアピールしたいと当然考える。つまり、広告主の時間軸は商品広告で3カ月後が一般的になるだろう。

続いて、広告代理店は、今から1〜2年後のトレンドを常に探っているため、時間軸を1年以上先の未来に置いている。例として、「SDGs」が重要になるという考えはコロナ禍以前の2018年頃には既にあり、広告主に対して環境配慮への注力といった提案も行っていた。

それでは、広告主や代理店から仕事を請け負う私たちの業界はどうだろう。まずイベントや短期媒体などの都市部によく見られる仕事を多くこなす会社は、受注を増やすために環境に優しい、目新しいといった材料を積極的に取り入れる傾向にある。要するに、広告主や代理店と同じ時間軸に立ち、常に未来を見ているのだ。

しかし一方で、デジタルサイネージをはじめ、3DビジョンやLEDファンなどを扱うような仕事がたまにしかない、昔ながらの会社は、前者と真逆の時間軸にある。というのも、店舗サインや企業の看板は、古臭くならないように普遍的なデザインとするのが一般的だからだ。その上、企業の象徴になるため、長期掲出できることが求められる。このような背景から、我々の業界では「変わらない」のが最良とされてきた。時間軸は未来ではなく過去にあると言えよう。

しかし、常にその姿勢では大きなリスクを伴う。企業看板はともかく、それ以外のものまで同じように、仕事を受けるのは非常にまずい。広告主から、今売りたい商品広告を旬なデザインで支給され、看板をつくってほしいと言われた際、その材料が昔から何も変わらないものでは、広告のデザインどころか、イメージまで損なってしまうからだ。分かりやすく言うと、SDGsと大きく掲げた企業広告を、使い捨ての塩ビ粘着シートとアルミ複合板で製作しているのと変わらないように思う。通常、顧客である広告主の考えに合わせ、SDGsに貢献できるような材料を提案するのが世間一般ではなかろうか。

これは看板屋だけの問題ではなく、販売店にも課題はある。看板屋に時間軸を合わせ過ぎているため、新材料を提案するどころではなく、言われたものを早く安く届けるのが販売店の使命にいつの間にか変わってしまった。結果、全方向で値下げ合戦が繰り広げられ、利益も切迫するような状態に陥っている。

要するに、看板業界における時間軸は、看板屋そのものと言っても過言ではないのだ。これは業界の将来を考えた際に、大きな障壁となろう。本来、軸となるべきは広告主なのに、半数以上の看板屋が自分たちのやり方で仕事を進める。そのやり方に、広告主、広告代理店、販売店、資機材メーカーも合わせる、というあべこべが常態化している。今まで画期的な商材が生まれても、業界で広まるまでには相当な時間を要してきたのも、同じ理由からだ。

そして現在、自分たちを軸にして仕事をする看板屋と、リスクを恐れずに最先端の商材や技術を取り入れる“未来に軸を置く”看板屋との2極化がかなり進んでしまったのも懸念している。このままでは、閉鎖的な業界の悪いところばかりが顕在化していってしまう。私は否定し合うのではなく、それぞれが技術や知識をオープンにし、互いの良いところを共有し合い、業界全体の底上げが進んでほしいと切に願っている。

業界には、変わらない仕事と、変わっていく仕事の2種類がある。私は、どちらかだけが良いと言い切るつもりは毛頭ない。仕事の全体量が減りつつある今、両方を取り入れていく必要があるのだと伝えたかった。

結びに本稿を通して、読者の皆さんが、広告主の求めるビジネスサイクルに合わせて仕事を進められているのか、今一度考える機会となれば嬉しい。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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