8月18日、大阪市中央区の繁華街・道頓堀で発生したビル火災。連日の報道では、発火元に隣接するビルの「壁面広告」が延焼を拡大させた要因として、日増しに問題視されている。この件について、今回は私なりの考えを述べていきたいと思う。
報道で壁面広告が問題視されている点を順に整理すると、「市の屋外広告物条例に基づく設置許可の期限を今年2月に迎えたものの、更新手続きがなされていなかった」「20年前に取り付けた土台の金属枠について、建築確認申請の記録がない」。前者であれば継続申請時に義務化されている安全点検も行われていないだろうし、後者は無届けの金属フレームが今までたまたま落下しなかっただけなのではないか、とここで語ることは多くない。
この壁面広告に対して報道は、「防火地域でありながら、不燃ではなく防炎ターポリンを設置していた」点も強く指摘している。日本では建築基準法によって、防火地域内の広告物で高さ3mを超える看板は「主要な部分を不燃材料で造り、又は覆わなければならない」と定められている【図1】。テレビやWebのニュースを受けて、「不燃だったら燃えなかったのではないか」というような声も挙がっている。
【図1】看板等の防火措置
防火地域内にある看板、広告塔、装飾塔その他これらに類する工作物で、建築物の屋上に設けるもの又は高さ三メートルを超えるものは、その主要な部分を不燃材料で造り、又は覆わなければならない。
もちろん、防火地域である以上、法令に則った不燃材料による施工は必須となる。ただし、先述の建築基準法では「主要な部分を不燃材料で造り、又は覆う」義務があるとしているが、その解釈は容易ではない。不燃材料でサインをつくるべきなのか、それとも不燃材料で構造物をつくれば表面は不燃でなくても良いのか、これは一概には語れない。なぜなら本連載の初回でも触れた通り、不燃とは全てが燃えないわけではないからだ。
では、今回のビル火災は防火地域でありながら、不燃材料ではなく防炎製品を使ったから、あのような悲劇が起きたのか。また、防炎ターポリンをはじめとする防炎製品は、火災時には上に炎が燃え広がるものなのか。総務省消防庁によると、防炎とは「小さな火源に接しても炎が当たった部分が焦げるだけで容易には着火せず、着火しても自己消火性により燃え広がらなくなる性質」と定義されている【図2】。このように通常は、可燃物が燃えて炎が広がっている間は防炎製品も燃える可能性があるものの、火元が消えれば自己消火性によって燃え広がらないと考えられる。
【図2】総務省消防庁「防炎の知識と実際」
防炎とは、「燃えにくい」性質のことであり、繊維などの燃えやすい性質を改良して防炎の性能を与えると、小さな火源(マッチやライターなど)に接しても炎が当たった部分が焦げるだけで容易には着火せず、着火しても自己消火性(小規模燃焼において(有炎、無炎を含む)燃焼が継続しない性質)により燃え広がらなくなる性質のことである。
しかし、今回はニュースで報じられているように、防炎ターポリンが激しく燃え上がってしまっている。なぜ、このように炎が上に燃え広がったのか——。ここが私たち、サイン業界にとって最大の確認事項だと強調したい。このように延焼した理由について、しっかりと業界が率先して調査を重ね、行政などの関係機関に報告書を提出していくことが大切になる。なぜなら、今後の私たちの仕事を揺るがすほどに、法的な前提条件が覆ってしまう可能性を否定できないからだ。
ここで少し、防炎ターポリンについておさらいしたいと思う。まず、防炎ターポリンはメディアメーカーによって、その品質や性能が大きく異なる。認定を受けるために1回だけ発売前に試験を通すメーカーもいれば、均一な防炎性能を維持するために全ロット、ひいてはジャンボロールの複数カ所を試験にかけるメーカーもあるなど、言わば千差万別だ。なお、一般的に屋外の長期掲出向けでも、防炎性能を維持するには5年以内の張り替えが望ましいだろう。
気を付けてもらいたい点として、これら「材料」に対する認定を受けた防炎ターポリンに、出力加工をするにはサイン製作会社も材料ごとに「完成品」の認定を受ける必要があるということだ。そもそも適合しないプリンターで出力加工を施せば、インク単体から燃える可能性があるなど、認定されていない完成品では防炎性能を損なってしまう。
話を戻すと、今回のビル火災で問題視されている防炎ターポリンは、「果たして防炎試験時と同じ品質だったのか?」「出力加工後の完成品で防炎認定を取得していたのか?」「設置期間は適切だったのか?※」、あるいは「防炎製品は上に燃え広がるのか?」、これらの点について徹底的に業界を挙げて調査するべきだ。本来燃え広がらないはずの防炎製品が、なぜ今回のような延焼拡大を起こしたのか。今後、二度と同様の事故を起こさないようにするためには、どうすべきかを業界で検討しなければいけない、と私は強く思っている。
(※ 9月22日時点では、過去の写真を確認すると壁面広告の意匠は2023年12月前後まで今回とは異なるもので掲出されていたことから、少なくとも新しいデザインに切り替えてから2年は経過していないと考えられる)
おさらいにはなるが、不燃は国土交通省で、防炎は消防庁での管轄となる。犠牲となった消防士2人に対して追悼の意を表した上で、あえて持論を述べると、「消防庁管轄の防炎製品が原因で消防士が亡くなってしまった」、こういう結論に達した場合のサイン業界に与える影響は計り知れないと思う。防炎という規定そのものが見直され、法令も防炎から不燃へと移行するかもしれない。
本稿では、防炎と不燃に対する考察を述べたいのではなく、今回のビル火災について業界が調査・報告することの大切さを伝えたかった。ただ、一律で不燃となった場合の現実として、通常のアルミ複合板が使用できないほか、金属板やコンクリートなどの法定不燃材で看板の主要部分をつくらなくてはならなくなるなど、そのコストは膨大となる。不燃FF、不燃ターポリン、不燃アルミ複合板などを使えば良いが、シームが1回までという制限もあるほか、塩ビシートに比べれば1mあたりの単価も跳ね上がる。
私は、今回の件に対して、真実を明らかにして原因の解明に努めていくことが、サイン業界を守ることに最も寄与できると思っている。業界団体を中心に調査を進め、報告書を取りまとめて行政に提出するなど、事実の追求と今後の対策へと真摯に向き合っていくことを切に願う。それほどに、私たちの仕事の根底を揺るがしかねないほどの大事である。そして、「単に法律に則っていれば責任はない」という考えではなく、本当に人に安全なものを積極的に使っていくべきではないか、と結びに読者の皆さんへ投げかけたい。
文・髙木 蓮
25年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。



































