前回は、コロナ禍の影響で変わった価値観に触れ、現状のエンドユーザーが求めているニーズについて、具体例を挙げながら言及した。今回からは、そもそもコロナ禍と言われる現在の生活環境が、収束後にどのように変化するのか、私見を述べていきたい。
まず、コロナ禍で仕事が変わったり、減ったりした、と感じている業界関係者も多いと思う。しかし、アフターコロナを迎えれば、元の状態に戻るという考えは危険なように思う。仮に、コロナ禍が収束しても、元の生活や業界には戻らない、と私は考えている。
その根拠として、分かりやすいところを例に挙げると、ECサイトを活用したネットショッピング。これはコロナ禍で急激にニーズが伸びているものの、10年以上前から普及は加速していた。つまり、数年後の将来に来るべきものが前倒しになっただけではないだろうか。
対面では人と会いにくい時代に変わり、資機材は販売店を通して買うもの、看板製作は直接業者に注文しにいくもの、という従来の概念が強制的に覆された現在。コロナ禍が収束したとしても、元のように直接会って打ち合わせをしたり、直接納品に行ったりする必要性はあるのか、誰も疑問を抱かないとは考えにくい。
働き改革の一環であるリモートワークも同様。コロナ禍によって強制的に移行させられたものの、実際に導入して業務効率化を肌で感じた企業や従業員が、前のように電車に乗って通勤するスタイルには戻さないと思う。
話を戻すと、これまでは地元の製作会社にインクジェット出力やアクリル加工などを注文していたエンドユーザーが、飛沫感染防止のためにすぐパーテーションを欲しいからと、ネットでの注文に切り換えたとしよう。そうしたら、翌日には届くし、思ったよりも安いことに気付く。これを知ったユーザーは、コロナ禍が収束したからといって、改めて地元の業者に注文するとは思えない。
残念ながら、屋外広告も同じ現象に当てはまる。さまざまな統計では、ここ数年の市場規模は微増と発表されていた。しかし、それはインバウンドと東京五輪に向けた広告主の期待からであって、屋外媒体そのものを評価しているわけではない。そして、いずれの統計も下支えの役割を担ったのは屋外ビジョンである。
加えて、以前のように街をブラブラしながら看板を見て店舗に入るといった一般消費者も、コロナ禍でほとんどいなくなった。消費者は、この店舗に行きたいと明確な理由を持って行動するようになり、スマホのマップ機能で人混みを避けた移動もしている。
コロナ禍が収束した直後は、反動もあって以前のような街並みも予想できるものの、しばらくしたら現在の便利な生活スタイルに落ち着くと思う。特に、Z世代のような若者が、ネットで買い物をせずに、街をブラブラしながら買う物を決めるとは考えづらい。こうなると、看板のニーズそのものが問われるのだから、アフターコロナになれば仕事が元に戻るとは言い難い。
まとめると、ワクチンさえ普及すれば、今さえ辛抱していれば、という考えは非常にリスクを伴う可能性の方が高い。次回は、その根拠について、これまでの業界の変遷と将来像をもとに深掘りしていきたい。
文・髙木 蓮
20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。