本連載では、前回まで「アフターコロナ」を題材に話を続けてきた。今回は、そのまとめとして今後の業界動向を予測してみたい。
私は、近年ほど市場ニーズが目まぐるしく変化した時代はないように感じている。2019年は、G20(持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合)を契機に、エンドユーザーの脱塩ビやリサイクルに対する関心が急激に高まった。2020年は、コロナ禍によって一変。本来は消防の立ち入り検査で問題視されるアクリル板が、日本中の店舗に溢れるようになった。
むしろ、アクリル板を設置しなければ営業できないという、これまでの常識を覆す光景が日常に変わった。そして、2021年はワクチンの開発競争を起因に、欧米と中国の軋轢が顕在化している。主に欧米からワクチン供給を受けている日本は、SDGsに対する取り組みも一層に追従。サインマテリアルも脱塩ビを通り越し、17のゴールに適応した商材が強く求められている。
このように、サイン&ディスプレイ領域におけるユーザーからのニーズは、ここ3年間で著しく変わった。これだけの変化の波が押し寄せるなか、アフターコロナになれば元に戻るのはあり得ない。そもそも、どの時期を指して「元」なのか。だから、今だけ辛抱すればなんとかなるという考えは、自社の将来に大きな影を残しかねないと改めて強調したい。
時代の変化が顕著な現在。屋外媒体はLEDビジョンによるデジタルサイネージに置き換えが進む。店舗サインは簡易施工のマテリアルが売り上げを伸ばす傾向。テイクアウトや酒類の提供自粛、業態変更に対応するため、簡単にボードを差し替えられる商材にニーズが集まっている。
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今後の予測としては、大型看板は間違いなく減少する。その理由は、台風の増加に伴う安全対策の課題と、高い環境負荷が挙げられる。現在進行形で最も減っているのは袖看板。すでに数年前から、大手不動産ディベロッパーやメガバンクは、袖看板を設置しない、または取り外す方針を打ち出している。
これらは、一般消費者が遠くの看板を見なくなりつつあるのも要因。その傾向は以前からあったものの、コロナ禍で急速に地図アプリなどが普及し、より顕著になった。ここに環境負荷への配慮を加えると、アルミ複合板や塩ビ系メディアに捉われない壁面、ウインドウを活用した媒体が増えるのは自然の流れ。さらに言えば、今後は海外で主流の3Dビジョンに少しずつ移行し、SNSとの連動性がより重視されていくだろう。
では、実際に私たちはどうすべきか。シンプルな例として、簡易なIJ出力はネット印刷に移行していく。それだけならまだしも、一般企業によっては自社でIJPを導入して施工まで内製化するだろう。本連載で繰り返しているが、「待っている」だけだと仕事はなくなる。
一昔前であれば、「あの看板を製作した会社に任せたい」という繰り返しで看板屋は信用を積み重ね、仕事を増やしていったものの、現在のネット社会では通用しない。コロナ禍で仕事が減っているのは確かとはいえ、それが全ての原因ではないのだ。
自社のECサイトやSNSを活用した情報発信は、今の時代に欠かせない。今後はネットの口コミも重視されるだろう。飲食、旅館、美容、あらゆる業種が消費者にリアルタイムで評価されるなか、看板だけは別とはならない。
これまでの業界は、既得権益を損なわないよう、新しいものをなくそうとする意識が強かった。分かりやすい例はデジタルサイネージで、利益の取り方や仕事内容が変わるのを嫌い、未だに手を出しあぐねている会社は少なくない。しかし、変化の連続にある現在、新しいものへ挑戦せずに利益を確保するのは難しい。看板は、ニッチな業界だから、昔のやり方が長く続けられただけだ。
サインをひとつ頼むのにも、ネットの方が早くて安いという事実に気付いた顧客は、もう戻らない。今ならまだ間に合う。自社、ひいては業界の市場を守るために固定概念を捨て、まずは新しい仕事に一歩踏み出してほしい。
文・髙木 蓮
20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。