10. グリーンクロス 久保 孝二社長

2014年から稼働している埼玉・久喜の物流センター。関東近辺からの依頼に対する対応力を、大きく向上させている

先代社長の本懐を受け継ぎ 異例の若さで社長就任

何もかも順風満帆に見えていたものの、その実、会社にはひとつのピンチが訪れていた。69歳という年齢に差しかかった青山氏が、余命いくばくもない病魔に侵されていたのだ。世代交代を余儀なくされ、やむを得ず転機を迎えた同社。そんな時、青山氏からの鶴の一声に、社内全体が驚愕したという。「次の社長は君だ」と、久保氏がはっきり名指しされたのだ。

本人にとっても、青天の霹靂だった。当時はまだ役員になって日も浅く、後継候補と目されていた年齢の離れた常務や専務も当然いた。会社に対しての責任感こそ抱いていたものの、自分が先頭で引っ張っていくとは、考えもしていなかった。「今でも、先代の真意は闇のなかです。しかし、私に期待してくれた部分があるなら、その言葉に報いたいと思いました」。志半ばで病床に伏せなければならない青山氏の悔しさも、痛いほど伝わってきた。自分ができないと言ってしまえば、社長の本懐は夢に消えてしまうかもしれない。久保氏の戸惑いが決意に代わるのに、そう時間はかからなかった。

2011年、40歳で代表取締役社長に就任。周囲から見ても、異例の大抜擢だったそうだ。しかし、いくら年功序列のない会社とは言え、急すぎる社長就任に、社内外ともに容赦ないプレッシャーが浴びせられた。代表が変われば、部下は付いてきてくれないかもしれない。取引先の態度も変わるかもしれない。そして、銀行は融資を受け付けなくなるかもしれない。不安は尽きず、ほかの役員たちへの複雑な感情もあった。

しかしそれでも、どうしても譲れない信念があった。「会社を現状維持させて満足する自分になるのだけは、何よりも嫌でした」。その言葉の背景にあるのは、先代の「日本一の会社にしたい」という枯れない情熱だ。「最終的には、比べられるのは当然だと開き直って乗り切りましたね(笑)」と、久保氏はほほ笑む。

決意さえ固まればあとは前進あるのみだ。同年3月、佐賀・鳥栖に大規模な物流センターを開設した。その上、9月には東京支社を開設し、ついに関東へ進出。商圏とともに取り扱い品目も増やし、より会社を大きくするための最初の一大決心だった。

しかし、悪いタイミングは重なるもので、当時は世間全体が東日本大震災の余波で不景気だった頃。「いきなりの大きな設備投資で、失敗すれば会社を傾かせるのでは」と、なかには慎重派の声もあった。実際に、そこから数年は年々売り上げアップこそしていたものの、社長就任時の70億円からほぼ横ばい状態が続き、結果の出ない日々に焦る気持ちもあったという。

このままでは、社内がバラバラになってしまう。自身も含めた不安の声を吹き飛ばすため、2014年に福岡本社で決起集会を実施。当時の全社員約500人を全国から一堂に集め、結束をより高める社内イベントを開催した。併せて2月には、埼玉・久喜にも物流センターを開設。その甲斐あってか、徐々に成果も出始め、安定して年商100億円を超えていくように。決起集会はその後、コロナ禍に見舞われる2019年まで、毎年行われた。

近年はサイン製作もより積極的に手がけている同社。銀行やスポーツジムなど、大手チェーン店からの信頼も厚い

大手販売会社の買収を契機に サイン業界へ本格的に参入

そして、久保氏の手応えが確信に変わる出来事は、2015年10月に起きた。冒頭の通り、サイン業界全体にとっても大きなトピックスとなる、トレードの買収が決まったのだ。目的は、サイン事業のさらなる本格化。ECサイトでの販売実績を多数持ち、日本中にユーザーを抱えるトレードと同社との親和性は高く、両社の連携によって一層専門性の高いスタッフを全国に配置できるようになったのはもちろん、よりEC事業を強化させるのにもつながった。

それらの知見を生かし、現在では北海道から沖縄まで全国60拠点を構え、各支社には必ず大判プリンターと専門デザイナーを配置。短納期に対応できる万全のサイン製作体制を構築している。EC事業の分野でも、2024年5月には安全機材や災害対策用品などを取り扱うWebサイト「GREEN CROSS – select」がオープンするなど、新たな進化も続けている。

社長になり、早13年。気付けば全期連続での売り上げアップを達成した。直近の2023年度には、事業承継時の年商の約4倍に相当する、243億円にまで成長。コロナ禍にも一切の揺らぎを見せずに大手飲食、スポーツジムなどのチェーン店や銀行をはじめとする多くの顧客を獲得し、サイン関連だけで、90億円以上の売り上げを挙げているそうだ。それでも久保氏は、「急成長に秘訣はありません。当たり前の仕事を、社員時代から変わらず続けた結果です」と、謙遜する姿勢を崩さない。

加えて、より一層全国規模でネットワークを構築するために、2019年にはパートナー企業とグリーンクロスをマッチングさせるWebサービスを行う別会社、G-サインを設立。併せて、老朽化した看板の管理や安全点検、許可申請などをサポートする「看板クリニック」のブランディングを開始するなど、業界に根付いた多彩な事業を展開する。

歩みは留まるところを知らず、さらなる業容拡大も見据える。2019年3月に福岡の北斗ネオン、2022年5月に大阪のマクテック、2024年3月に東京のアイ工芸と、全国各地のサイン製作会社を相次いで連結子会社化。買収の経緯については、「それぞれの地域で豊富な実績を持つ企業と協力し合い、よりシナジーを高めていきたいと思ったからです」と語る。創業から55周年を迎えた2024年8月、それら子会社やユーザー企業を福岡に招いて、懇親会「感謝の会」を実施。かつて社内での決起集会で培ってきた団結の心は子会社や社外にも受け継がれ、業界のなかで少しずつ根付き始めている。

2014年から2019年まで毎年開催されていた決起集会。全社員を会場に集め、コミュニケーションの場とするだけでなく、優秀な業績を収めた社員を表彰するイベントなども実施された

2024年8月、関連会社や主要取引先、ユーザーなどを招いた「感謝の会」を開催。関係者約350人を集め、和やかな懇親会が行われた

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