精神論ではない真の働き方改革へ
整理整頓の徹底やIT化には、当然ながら社内からの反発もあった。屋外広告業に限らず、建設業界全体はまだまだITリテラシーが低く、古くからいる職人は変わることに対する拒絶反応を示してしまう。また、この業界特有の問題として、社員の独立を看過してきたことがある。一人親方でも新たな会社として立ち上がれば、競争相手となるし、技術者が減れば1企業が業容を発展させにくくなる。サイン製作企業で、他業種のように大手が少ないのはここに起因する。「押し付けではなく、社員の力量を見ながら新しい風を入れないと上手くいかない。とくに職人は自分の確固たる世界があり、他の人とのコミュニケーションより、ものづくりを優先する人が多い。現在、常時6人の一人親方と連携を取って、無理に会社の規則に縛らず、そういった外部協力者(一人親方)との連携を強固にする道を選んでいる。一人親方でも、安心に働ける枠組みを整えていければ」と話す。
「これからの時代は、少子高齢化で国内の人手不足はより深刻になる。売り上げを追求するために人を増やすのではなく、いかに人の手を減らし、省人化するかが重要だ。新しい人を雇うよりも、今いる人材の残業を減らし、給与をアップさせていくことに重きを置く」。こう説く伊藝氏が次の一手と、大手ITベンダーとともに採用を進めているのが、国産のRPA(Robotic Process Automation)だ。
RPAとは、従来PC を使って手作業で行っていたコピー、ペースト、データ連携などの作業を自動化する技術。資料をまとめたり、報告書を作成したり、部下にその都度指示を出していたルーティンワークがクリック一つで完了する。テレワークや在宅勤務といった「働き方の環境」ではなく、「働く内容」自体をも変革することが期待されている。
伊藝氏は、「“働き方改革”は、もっと生産性を上げて頑張れと言葉だけの精神論に陥りがちだが、経営者は具体的に何をどうすれば効率化につながり、労働時間の短縮が可能になるか、具体的に示さなければいけない。沖縄は海に囲まれているため、輸送コストがかかり、県外からの新規参入や進出は難しい。しかし、自分から外に出ていかなければ、社員に提示できるような最新の情報が得られないし、人との交流も生まれない」。
実際に伊藝氏は、月一度東京に赴き、看板ディスプレイの事業者が集う全国ネットワーク「サインの森」の定例会に参加することを心掛けている。その場では、新しい資機材や技術の情報収集や営業に関する情報交換を行い、人と人の接点が生まれている。その縁で、県外の同業者から全国規模のイベントで沖縄会場の企画施工を受注することも増えつつある。「人脈で得た業務を完遂し、タムに任せれば安心と思われる実績を積み重ね、仕事の継続につなげていきたい。先代の築いてきた『他には無い』企業であることを守りつつ、地元大学との産学連携なども視野に入れ、3K・アナログなイメージから脱却し、サイン業界の+αを生み出せるように歩みを続けていく」と展望を語った。
- 株式会社タム
代表取締役:伊藝 博
本社所在地:沖縄県糸満市西崎町5-12-22
創業:1985年4月
社員数:13名(2019年3月現在)