石材に恥じない仕事を
職人としての主な仕事は、石に文字を刻む「字彫り」、石の表面を磨いてツヤを出す「石磨き」、モニュメントや石碑などの「彫刻」の3つに分かれる。なかでも、字彫りの一種で、墓石に故人の氏名を彫る「追刻」が一番多いという。
「墓碑に亡くなった方の名を刻む、遺族の思いが込められた尊い仕事です。より一層、心を込めてあたっています」
追刻は、コンプレッサーで大量の砂を吹き付け、石材を彫刻する「サンドブラスト加工」で作り上げる。この加工法は、短時間で彫刻でき、線の強弱や深さの調整が容易で、複雑な模様や細部への加工がしやすい。上手に彫刻するには、吹きつけの力加減でメリハリをつけるのがコツ。「例えば、明朝体を彫るときは、筆で書くようなイメージが大切です。止め、曲げなど力が入る場所は深く、はらいなど力を抜くところは浅く掘ると毛筆の柔らかい質感を表現できます」
修正がきかない一発勝負の世界。失敗が許されないなか、大事にしているのが長年の経験から得た直感だ。自分の感覚を磨くために、日常生活から意識的にデザインに触れている。街中の看板やサイン、変わったところでは運転中に他車のテールランプまで観察し、プライベートすら修行に変える。
「年をとった今でも、自分自身はまだまだ磨けば、さらに光り続けると思っています。石材は看板素材のなかでも最も寿命が長く、人から愛され続けるもの。その貴重な素材に恥じないよう、誇りを持てるような仕事をしていきたいですね」
大場さんは印象に残っている仕事に、東日本大震災での津波の最高到達点を刻んだ石碑製作を挙げる。その恐ろしさを風化させず後世に伝えていく石碑製作の総責任者として、大場さんはデザインから製作まで全ての工程に携わった。作る石碑は3つ。同時並行でこれほどの大型物件を進めるのは同社で前例がなく、社内でも大プロジェクトになった。
「石碑が無事完成し、設置されたときは感無量の一言でした。この尊い仕事の指揮を執れたのは、一生忘れられない、心に刻まれる経験になりました」
石職人の門を叩いて32年間、がむしゃらに走り続けてきた大場さんも、今年で61歳を迎える。それでも、熱意を込めて話すその背中は真っすぐと伸びる。今なお、石への情熱は尽きない。
「自分が作ったものが長く愛され、存在している。それが石職人としての一番の喜びだと思います」。そう言葉を結ぶと、頬を緩めて笑った。