富山市桜町の富山地方鉄道労働組合会館屋上に設置されたコカ・コーラの巨大看板が28日、市の条例改正に伴い撤去された。この屋外広告看板は、誕生してからおよそ50年以上、地域のランドマークとして、住民から広く親しまれていたという。
看板は、H10,000×W9,500㎜の巨大サイズ。富山地方鉄道労働組合会館が落成した1965年当時から、長きにわたり設置され続けてきた。富山地方鉄道労働組合の職員であり、当初の建設計画から携わっている金山氏は「あの頃はまだ終戦後20年あまりだったので、コカ・コーラはアメリカ帝国主義の象徴になってしまうからと、設置に反対する声もありました。今では良い思い出話ですが、当時は大まじめだったんです」とほほ笑む。
撤去された看板は、何度目かのリニューアルを挟み、デジタル時計と気温が表示された形式に。道行く人々が見上げながら会話している姿もあり、「東京出張から帰ってきてこの看板を見ると、帰ってきたとホッとする」という地域住民からの声も。「時計が狂っている」という電話もたまにかかってきたのだと、金山氏は目を細める。
まちに日常の一部として溶け込み、愛されてきた屋外広告看板。しかし、2010年、残念なニュースが舞い込んだ。富山市屋外広告物条例の許可基準が改正され、過剰に大きかったり、無秩序だと判断された屋外掲出物に、規制がかけられるようになってしまったのだ。主要道路や沿線上は特に規制が厳しく、新幹線の路線沿いにある富山地方鉄道労働組合会館も例外ではない。真っ赤で大きいだけでなく、きらきらと光るネオンは致命的だ。まちの賑わい創出に一役買っていたはずの看板は、一夜のうちに撤去が決まった。
10年の猶予措置が与えられていたものの、ついに今年2月、正式に撤去工事を開始。同28日に完工した。今後も規制の都合上、新たな看板の設置などは予定されていないという。
身近にあるもの、当たり前にあるものへの安心感のような感覚は、その土地の文化でもあると考えていると、金山氏。だからこそ、残念でならないと肩を落とす。ニュースを知った人たちからも、Twitterを通して、「幼い頃からの思い出が消えるのは寂しい」「新幹線に乗るたびに見るのが楽しみだった。これがなくなると思うと……」など、看板との別れを惜しむコメントが相次いだ。