色彩やマテリアルに特化した自社にしかできない仕事を続けていきたい
編:そのような事業承継の経緯も経て、長年業界を牽引されてきた中川ケミカルさんですけれども、最後に今後について伺っていきたいと思います。これから、どういう姿勢でやっていきたいのかなど、御社の展望をお聞かせください。例えば、素材メーカーとしての豊富な実績はお持ちですが、反面カッティングマシンなどハード面の取り扱いには着手していませんよね? このあたりの事業戦略的な意味合いは何かあるのでしょうか?
中:これについては、正確に言うと先代がチャレンジしようと思ったタイミングはあったみたいなんですよ。でも、本腰を入れてやり始めるかどうかの判断のなかで止めた、というのが正直な話だと思います。餅は餅屋と言うように、うちの餅ではなかったという話なんですよね。ハードの開発ではよりスペシャリストの他社の手で手がけて、それがもっと世の中のためになるのであれば、そっちでやった方が良いし。もっと言えば、例えば仕事の労力を100として、どこに何をどう配分するかを考えるのが経営者の仕事じゃないですか。そして、ハードの開発に配分するのか、逆にもっとマテリアルを深堀りした方が良いのかっていう選択の時に、当社はそっちを選ばなかったという話だと思います。
編:経営判断のなかで、よりマテリアルへの注力を選ばれたんですね。
中:はい。そして、そちらを選ばなかったおかげでできた製品や仕事って、たくさんあったと思います。例えば、高透明性が特徴で、重ねてたくさんの色を作れる「IROMIZU」だったり、本物の金属や金属の錆、和紙などをシートにした「MATERIO」という製品だったり。色彩研究の部分も、もう何十年も力を注いで、独自の色票を作ったりしています。これからもずっと続けていけば、もっと面白い製品を作っていけると思うんですよね。
編:それこそは、御社にしかできない仕事ですし、続けていってほしいと、僭越ながら私も思います。
中:ありがとうございます。
編:では、これからのサイン業界について、何か思う部分があれば教えてください。
中:業界自体が、どんどん変わっていくと思います。むしろ、それを前提に動き出すべきだと。僕は今のサイン業界全体に物申せるような立場では無いですけど、自分の立ち位置であるとか、役割であるとか、使命であるとか、各々が改めて考え直すのも有益なのではないかと強く感じています。
編:と言うと?
中:例えば看板屋さんで言えば、じゃあそもそも看板って何のためにあるの? というところから掘り下げていって、じゃあコロナ禍で苦しい今、この時代にやらなきゃいけない僕たちの使命って何? と、それぞれが考えるべきかなと。それは、業界だけでなく、全てに言える話かもしれないですけど。そんななか、当社の場合で言えば、やはりカッティングシートの製作や良い素材の提供になっていくと思います。その部分は当然として、優れた空間デザインを実現するために何ができるか、どうお手伝いできるか、色の力によって貢献できるか……。初心に返って、本当の僕たちの目的を改めて考えながら、社内の皆で共有していこうかなと考えています。
編:まさに、「人間空間に色をさす」ですね。
中:そうです! 中川堂時代の広告のキャッチコピー「水と空気以外にはどこでも貼れます」みたいな、ああいう自由な発想で、何か生み出していきたいと思いますね。まだ僕も、何も成し遂げているわけではないんですが、10年後くらいにまたこのインタビューをやってもらえたら、その時にはもう少し、何か良いお話しをできるかなぁと、そんな自分で在りたいと思ってます。
編:僕らもその舞台に再び立てるよう、頑張っていきたいです。改めて、本日はありがとうございました。
中:こちらこそ、ありがとうございました。