WALL SHAREは2022年11月、オーディオ機器やIoT関連商品のプレシードジャパンと連携し、新商品のワイヤレスイヤホン・AVIOT TE-J1を訴求する全長20m越えの「ミューラル(壁画)」を東京・渋谷で公開した。製作したのは、日本を代表するストリートアーティストのPHILさんとFATEさん。新商品のテーマ「変化を楽しめ」をデザインコンセプトに、PHILさんの得意とする写実表現と、FATEさんによる幾何学模様が加わったコラボレーション作品となっている。本サイトではWALL SHAREの川添孝信さんに、日本では珍しいミューラルのプロデュース展開について詳しく話を聞いた。
――ミューラルのプロデュースをするようになった経緯を教えてください
私は、もともとヒップホップが好きで、そこからストリートカルチャーにも興味を持つようになりました。その流れで、ミューラルにも強い関心を持ったのです。ただ、自分の好きなカルチャーは、日本では落書きのようなネガティブなイメージが先行してしまっています。
一方、海外に行くと、ミューラルは一般的に受け入れられていて、自然とアートを楽しむ姿勢が根付いているのです。そこで、日本でもミューラルというアートを広めたいと思ったのが、プロデュース事業を立ち上げたきっかけでした。
2019年頃から個人でプロデュースを手がけるようになり、手応えを感じ始めた2020年4月にWALL SHAREを設立しました。コロナ禍で緊急事態宣言も相次ぐなか、半年くらい仕事がないという逆風はあったものの、現在までの実績は90作品超に上っています。
ミューラルの良いところは、アート作品を分かりやすくアウトプットできるところです。Web検索からサイトやSNSを通じて、官公庁、鉄道事業者、飲食店オーナー、飲料メーカーなど、幅広い業種のクライアントからこれまでに仕事をいただいていますね。
――なぜ、日本では耳慣れない「ミューラル」と呼ぶのでしょうか
ビジネスとアートをかけ合わせるに当たり、一番大切にしている姿勢が「カルチャーファースト」です。このため、日本では広まっていないからと造語をつくったりせずに、世界的にも主流である「ミューラル」という言葉を大事にしたいと考えました。
加えて、あえて日本ではまだ耳慣れない言葉を使えば、将来定着した時に「”ミューラル”と言えばWALL SHARE」となれるのでは、という狙いもあります。
――プロデュースする上でのこだわりを教えてください
アーティストが良い作品を描けるように、オファーを出す前にクライアントに対して望ましい表現や、NGな表現をすり合わせています。スケッチを描いて、顧客へ戻して何度も修正という事態は避けたいので、アーティストが前向きに作品を描けるように事前の打ち合わせは綿密に行っています。
また、当たり前とはいえ、クライアントの目指したい方向性やメッセージをどのように表現すれば、より多くの人に伝わりインパクトが出せるのかという点には気を配っています。アーティストが企業と組む以上、どうしても不自由な部分は生まれます。そのなかでもスタイルや表現をなるべく規制させずに、良いコラボレーションができるよう心がけています。
もっと言うと、あまりに企業色が色濃く出て、アーティストの持ち味は全くないとなると、そのファンに「アートを分かってない企業だ」と思われてしまいます。せっかくミューラルへ挑戦してもらったクライアントに、かえってマイナスのイメージが付くのはもちろん避けるべきです。アートをビジネスにかけ合わせるに当たり、良い作品を生み出すという姿勢は結果として顧客を守ることにつながります。