施工失敗後のリカバリーと対策

今回は、読者から寄せられた質問のなかから「施工失敗後のリカバリーと対策」について、一例を挙げていきたい。まずは、そもそもシート貼りの施工前に、 気を付けなければいけない点を振り返ってみよう。 

最近は、新しい駅や複合ビル、ハイブランド店などの石壁にも、樹脂のコーティングが頻繁に施されるようになった。そこに、通常のIJメディアやマーキングフィルムを貼り付けると、「つや転写」を引き起こす。分かりやすい例として、人型のデザインを剥がしたら、人型の形が残ってしまった、というような事例だろう。理由はシンプルで壁側の樹脂塗装に、フィルム側の成分が移行し、そこだけつや感が変わってしまったからだ。これにより、グロスがマットに変わったり、その逆も引き起こす。つい先日にも、指定の材料を切らし、異なるメディアを使ってしまった結果、壁そのものの修復が必要になり、数百万円の損害を出したという失敗談を業界内で聞いた。 

こういった現象は、失敗後にはリカバリーがほとんど効かないため、施工前に現調した上で、しっかりと材料を選定すべきだ。仮にメーカー側へ苦情を入れても、樹脂塗装の上に一般的な粘着シートを貼れば、当然そうなりますと回答せざるを得ず、施工する側の責任になってしまうからだ。 

次に、比較的リカバリーのしやすいものとして、ウインドウフィルムの「白化現象」に触れたい。白化とは、透明のガラスやアクリルと、メディアの粘着剤との間にわずかな水が入り混み、角度によって白く見えてしまう現象を指す。それを嫌って現場では近年、スキージーで擦れば水抜けがしやすいという理由で、PETではなく塩ビのウインドウフィルムを好む傾向にある。

しかし、基本的に白化はどんなメディアでも起きる。白化現象が起きたからといって、スキージーで擦っても窓ガラス側の凹凸に起因する場合、触り過ぎるのは決しておすすめできない。結局のところ、最も効率的なのはPETと同じく水が抜けるのを待つことだ。塩ビの場合、夏場なら1〜2日で白化は自然と消える。シンプルに、透明や乳半のフィルムを貼る際は、適度な量の中性洗剤を混ぜた水で、窓と粘着剤をしっかりと馴染ませ、きちんと水を抜くのがきれいに施工できる近道だと思う。

続いて、白化現象の流れからラミネートフィルムのシルバリングについても話したい。現在は熱をかけずにラミネーティングするのが一般的になったので、シルバリングや光沢度の変化にも気を付ける必要がある。納期に余裕があれば交換なども可能だが、そうでない際の応急処置としては、太陽光に当てるのが一番早い。意外と、思い切って屋外掲出してみたら、翌日には解消されているケースは多い。さすがにそれは怖いけど時間がない……という場合も、ヒートガンまたはドライヤーに当てれば直ることが多い。

近年は、水貼りよりもドライ貼りが圧倒的に多くなった。その影響か、エアフリータイプの出荷量が増えていると聞く。ただ、エアフリーでの施工の場合は、圧着を怠ると初期粘着力が30%も落ちてしまう。また、リカバリーのしやすさを考えれば、初期タックが弱ければ弱いほど貼り直しもしやすい。とはいえ、きちんと施工時に圧着しないとメディアが落ちて、大きなリスクにつながる点は念頭に置いてほしい。付け加えれば、ライナーから剥がす際も軽ければ軽いほど施工はしやすくなる一方で、トンネリングが起きやすい。夏場は良いものの、冬場は多少重たいものを使用するなど、季節によっても材料の選び方は変わってくる。

結びに、いかなるシーンでも活躍できるような万能な商品はない、と強調したい。先述した通り、施工がしやすければ初期粘着は落ちるなど、長所と短所は表裏一体のもの。強粘着かつ糊残り一切なし、柔らかく施工性に優れて掲出後は全く伸縮しない、そんな商品は存在しない以上、その現場、現場に合わせて適材適所の材料を選定していくべきだろう。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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