マテリアルリサイクルを後押しする製品の単一素材化

マスク解禁から3カ月が経過し、私たちの日常も少しずつ変化。前回触れたように、飛沫防止用のアクリルパーテーションは行き場を失い、業界内でもその対応に困る人は決して少なくないと肌で感じている。今回は、前回の続きとして、「サーマル」「マテリアル」「ケミカル」3つのリサイクルの仕組みを掘り下げてみたい。

サーマルは、廃棄物を焼却した際に生まれる熱エネルギーを再利用するもので、ただ単に燃やすだけだと、熱回収率は約20%にとどまる。しかし、固形燃料の「RPF」としてリサイクルすると、回収率は85%以上に跳ね上がり、かつ石炭を燃やすよりもCO2排出量を33%低減できる。そして、製造過程で熱を加えないフラフ燃料の「CPF」にすれば、より環境負荷を抑えられる。

マテリアルは、物から物へと循環させるもので、廃棄物を熱したり、砕いたりして同じ素材として再利用する。例えば、PETからPET、PPからPPのリサイクルを連想してもらえれば分かりやすい。

ケミカルは、素材の異なる廃棄物を化学的に分解し、原料に戻してさまざまな素材として再利用するものだ。こちらは、PETから石油、PETとPPから塩ビをつくる、といったイメージが相応しい。

この3つのなかで、一番簡単でエネルギー循環率も高く、違法性の心配がないのは、サーマルのRPFとCPFと言える。なぜなら、47都道府県どこでも製造できるからで、廃棄物の回収・運搬で県をまたぎにくく、廃棄物処理法などに抵触する懸念がいらないためだ。ただ、RPFもCPFもサーマルに変わりはないので、極端に言えば草を刈って燃やすような印象を持たれがちで、クライアントからは毛嫌いされやすい傾向にある。

となると、サイン業界で推進すべきなのは、マテリアルやケミカルなのか? しかし、業界の製品は単一素材が非常に少なく、複合素材のアイテムばかりなので、現状の製品でマテリアルに取り組むには課題が残る。分かりやすいところではクロスで、単なるポリエステルだと思っていても、防炎剤や受理層にアクリル、塩ビ系素材が混入されているため、ポリエステルに戻すのは簡単ではない。それに、インクの載ったメディアをメディアに戻すのは非常に難しく、同一素材でボードや記念品として再利用するのが、現時点でのマテリアルの近道だろう。

それならば、複合素材にも対応できるケミカルを目指すべきなのかと問われても、大規模な設備が必要になるし、それこそ数百トンという物量を回収しなければならない。つまり、業界の少量な素材をかき集めたところで専門工場からは相手にされにくく、ケミカルは極めて困難なのが実情と言える。

では、業界のリサイクルはどう進めるべきか。やはり、出力後のメディアにも対応可能で、単純な仕組みでリサイクルに取り組めるマテリアルが最適だと私は考える。サーマルに比べて、クライアントからの理解も段違いで得やすいのも理由に挙げられる。

ここで、身近なPETボトルを例に挙げたい。フィルムとキャップの分別がされていないだけで、現状のリサイクル率は約50%にとどまっていると聞く。この問題の根底は、私たち業界の製品構造と同じようにも考えられる。PETボトルという単一素材での回収が進めば、ボトルtoボトルのマテリアルはもっと進んでいく。要するに、リサイクルの原則にあるのは、「分別」のしやすさなのだ。

業界にとって壁は高いものの、今後は製品の単一素材化を目指していけば、マテリアルが容易になり、リサイクルも一気に加速していくのではないか。その壁である、IJメディアと下地材のような単一素材にしにくい部分は、それぞれを分別しやすくするだけでも、大きく状況は変わる。

今後、リサイクルを進める上で、製品開発時に「単一素材」というテーマは外せない。そんな考えを日々巡らせていることを今回はまとめてみた。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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