サイン関連企業による全国ネットワークを展開するサインの森は、第10回オープンセミナー「サイン業、令和革命。ともに考え決断、行動する日」を8月30日午後13時から、東京・有明のTFTビル東館9階研修室906号室で開催した。
定刻、林義幸会長は次のように挨拶した。「毎年恒例のオープンセミナーも、今年で10年目となる10回目を迎え、皆さまのご支援のおかげと感謝申し上げる。現在、さまざまな施工会社を回っても、多くの経営者が人口減少に伴う人手不足に危機感を抱いている。働き方改革の推進方針には、休日を増やし、残業時間を減らし、有給休暇の完全消化が含まれるなど、現場の実態とは乖離(かいり)するところもあり、疑問を抱く方々も多いだろう。ではなぜ、働き方改革に取り組まなければならないのか、本日のセミナーを通し、その疑問を解決していきたい」
次いで、実行委員長の上野充博氏が「筆一本とペンキから始まったサイン業も、昭和から平成にかけてカッティングマシン、インクジェットプリンターとさまざまな機械化により、劇的な変革を迎えた。現在、平成から令和に変わり、社会全体が働き方改革で大きな変革期に入っている。サイン業は、いまだに80日程度の休みしかない会社が多く、働き方や労働環境は、他業種に比べて非常に遅れている。これからは、元請けから一人親方まで業界全体が幸せになれるよう、変わっていかなければ未来は拓けていかないのではなかろうか。まずは本日お集まりの皆さまと、ともに知恵を出し合い、行動に移し、サイン業の令和革命の波を起こしていきたい」と述べ、開会宣言とした。
社員が自らの働き方を自己申告するサイボウズ
セミナーでは、サイボウズビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部の大槻幸夫部長が登壇。「サイボウズの事例から考える、なぜいま日本の会社に働き方改革が必要なのか」をテーマに講演した。
サイボウズは、現在では世間に先んじて働き方改革に着手し、成果を上げてきたホワイト企業のイメージが強い。しかし、1999年の設立当初は、社員に我慢を強いる管理優先の画一的な社風で、2005年前後から売り上げは頭打ちとなり、3人に1人が辞めてしまう課題が生じていく。そこで抜本的な働き方改革に着手する。2006年、育休を最大6年まで伸ばすなど女性社員の定着率向上に努め、さらに社員が常勤や非常勤などの勤務体系を複数パターンから選択できるように変えていった。現在では、社員一人ひとりが自らの働き方を自己申告する「働き方宣言制度」を導入。副業も推進し、100人100通りの多様な働き方を受け入れる体制を築いていった。
「働き方改革の本質とは、残業を削減するとかではなく、従業員へ画一的な管理のしやすいルールを強いて会社一律で仕事を進める、という考えを捨てることにある。プロセスの中に一律で残業削減などがあっても、本質的には一人ひとりの働き方、ひいてはワガママを経営陣が受け入れられるかが大切だ。社員も同僚の自分とは異なる働き方を否定しない。これからの時代は公平性ではなく多様性を受け入れ、みんなが楽しく働ける環境を作っていかなければならない」
これらが奏功し、サイボウズは06年には28%まで達した離職率が現在は4%まで低減することに成功した。
無意識に共有される会社の「風土」が大切
ではなぜ、サイボウズが働き方改革で成果を上げることができたのか。それは、無意識的にメンバー間で共有されている価値観、いわば「風土」を大切にした点にある。同社では、グループウェアの開発に長年携わってきた経緯から、社長やマネージャーを含めた一人ひとりのスケジュールが社内全体に公開されている。営業マンの成果や開発プロジェクトの進捗、全員の日報すら自由に閲覧できる。
「あらゆる組織変革に言えるが、何かを変えようした時、みんなが実際の行動に移しているのか、これは非常に重要な点である。人は横が気になるもの。それを見える化し、疑心暗鬼を無くす。そのためには情報共有のツールが肝要で、一般的なメールだけだと宛先に入っていなければ見ることは出来ず、自ずと組織の壁を作ってしまう」
googleが成果を上げているプロジェクトチームを調べたところ、優秀なリーダーやスキルのあるメンバーがいる、そういった結果にはならず、「心理的安全性」というワードに行き着いた。自分の役割がある、同僚から認められている、失敗を話しても怖くない、このような安心感の高いチームこそがgoogleで一番成果を出していたという。
「社会人として成長していく上で、失敗は避けられない。その失敗から学んでいく。だけど、怒られるくらいなら失敗したくない。そもそも失敗するようなチャレンジもしなくなる。ここに、成果と心理的安全性が結びつくポイントがある。多くの企業が結果ばかりを優先し、関係性の質に目を向けない。関係性の質が悪ければ、会議の質も低下し、アイデアも生まれないばかりか、受け身の行動が優先され、思うような結果は生まれず、負のサイクルに陥る」
「まずは、関係性から始めなければならない。雰囲気は良いか、互いに信頼感はあるか、これらを重視したチームであれば、アイデアも生まれ、主体的な行動につながり、自ずと成果も上がるものだ。安心の『風土』を築いてこそ、組織の変革も根付いていく」
同社では、副業のスケジュールすらオープンにシェアする。これをしないと、「副業に傾倒し過ぎて本業が疎かになっていないか」などの不信感が生まれる。一人ひとりの情報を共有だけでなく開示、いわば「展示」することで、風通しの良い風土が生まれ、互いの疑心暗鬼もなくなるとした。
社員の多様性を受け入れる環境づくり
働き方改革の必然性については、人口減少の統計を示し、来年から50万人(鳥取県の現人口)ずつ減っていき、10年後には現在東京で働く人口と同数の働き手が減ることに触れ、これまでの働き方が維持できなくなっていくと強調。
「働き方改革と言うと、生産性向上のイメメージが強いが、これは違う。では、どこに焦点を当てるべきか。それは、社員一人ひとりの多様性を受け入れるかどうか。根本的な会社の存在意義とは、社員らを幸せにすることにある。会社とは個人の生活を豊かにするツールに過ぎないのに、いつの間にか会社のために個人が犠牲になってしまう。要は会社の存在意義を原点に立ち返り見直すのが、働き方改革の本質なのだ。この考えを持たないと、働き手がどんどん減っていく中で、人材の採用もままならず、ひいては離職率も高まってしまい、自ずと会社を維持できなくなっていく」
働き方改革をすすめるコツとしては、いきなり会社全体で取り組むのではなく、1つの部署やプロジェクトチームなど、小さなところから着手し成功体験を積んでいく。この体験が自ずと口コミで社内に広まっていき、周囲の理解も得られ易くなり、懐疑的だった社員の見方も変えていける。欧米的なトップダウンではなく、コツコツと現場の成功体験を広げていくのが大切であるとした。
サイボウズに寄せられる働き方改革に関する相談には、「うちは工場で、リモートワークなんて難しい。どうしたら良いか」といったものも多い。しかし、大槻氏は答える内容は同じだという。「社員の皆さんはどうしたいか。工場でリモートワークが出来ないことは、社員は分かりきっている。お題目ではなく、社員一人ひとりと向き合い、それぞれのリクエストを実現していくこと。これこそが働き方改革なのだ」