デザイナーとしての矜持を重視したデザイン賞
編:そんななかで、次は御社が例年開催している「CSデザイン賞」について伺っていきたいと思います。参加の条件として、カッティングシートの使用を義務付けていないのは大きな特徴ですよね。会社主催のデザイン賞で自社製品以外を取り扱うのは珍しいと感じるのですが、これは1982年に第1回を実施された当初から変わっていないルールなのでしょうか?
中:そうですね。僕はまだ8歳だったのであまり覚えてはないのですが、これは当時の代表だった私の父の意見だったと覚えています。確か、勝見勝先生の影響を大きく受けたとか。
編:あの、前東京五輪でピクトグラムを開発されたアートディレクターの方ですか?
中:そうです。1964年に開催した東京五輪で、意匠全ての総括ディレクションを手がけられた方です。鎌田経世さんのご紹介で、勝見先生にこのデザイン賞の審査員をしてもらおうという話になったのが、そもそものきっかけだったと聞いています。
勝見先生は、東京五輪の時にピクトグラムを開発しただけでなく、それを世界中で使えるように、かかわったデザイナーたちに著作権を放棄させたという有名な逸話があるのですけど、それだけ「デザインを自分の自己満足のためにやるのは良くない」という考えを持っている人だったんですね。
編:そうなんですね。
中:ですので、最初に勝見先生とお話するという時に、デザイン賞の3つのルールを決めたんです。
1つは、シートの貼り方を含めた、デザインのレベルを上げていきたい、それを啓蒙していきたい、という点です。当時、一気にカッティングシートの需要が伸びていた頃で、当社以外にも他メーカーから類似するシート素材はたくさん出ていました。けれど反面、にわか仕込みで気泡だらけのものだったり、おかしなデザインの製品が市場にはびこってもいました。せっかく良い製品をつくっても、良くない使われ方をしてしまうと、世の中を逆に汚してしまう恐れがあるのではないか。それを父は危惧し、デザイン賞によって良い作品の啓蒙活動をしたい、と考えていたみたいです。
編:だからこそ、カッティングシートに限らずに良い作品を募ったんですね。
中:そうです。それと2つ目の「当社の製品じゃなくても良い」という点。もちろん自分たちのためだけにやるデザイン賞ではないので、粘着剤が使われているシートであればどのメーカーのものでも良いという条件を設けました。これで、最初の質問の答えになりましたね。
編:ありがとうございます。
中:そして、最後の3つ目は、パイオニアとしての矜持ですね。とはいえ、やはりカッティングシートを開発した草分けとして、名前だけはデザイン賞に残したいという話になりまして。そこで、カッティングシートの頭文字を使って「C」「S」デザイン賞となったわけです。それを勝見先生に快諾してもらって、今まで脈々と受け継がれてきました。
編:会社としての志と、デザイナーの勝見先生としての志が合致して、相乗効果を生んでいますね。
中:そうそう! それを業界の人にも受け入れてもらえたのが良かったですよね。もしも、自分たちのメリットのためだけにやっていたら、おそらくここまで続くのは難しかったでしょうし、今みたいな形式にもなっていないと思います。