年明け初となる今回は、サイン業界における2023年の振り返りと、2024年の予測について私見を述べてみたい。
建設ラッシュの一言に尽きた昨年。資材が足りない状況は続き、より今後不足していくのは想像に難くない。今年については、能登半島地震の復興はもとより、大阪・関西万博の関連事業やホテル、商業施設などの建築はさらに加速していき、そのしわ寄せでサイン業界は短納期化が一層強く求められていくのではないだろうかと予想している。
さて私は以前から、先を見据えた設備投資の重要性を繰り返し述べてきた。働き方改革関連法の適用、いわゆる「2024年問題」を控えるなか、今後は内製化できなければ、利益や納期の確保が難しくなる一方だからだ。昨年も顕著に大手サイン製作会社への一極集中は進んでいった。大量生産できる企業に仕事の多くは集まり、今年に入っても多忙を極めるような状態が続く。そういった忙しいところと、暇なところの差がより広がったように思う。
とはいえ、昨今はこれまで手作業で加工していたものを機械化し、省人化を図って次代につなげていこうとする前向きな経営者も増えている。また、生産はあえて外注化させ、協力会社にお任せの広告代理店に近い体制でも、営業特化で上手に回して売り上げを伸ばす企業が現状少なくないのも事実。前述した受注量の増減と合わせて、生産の内・外製化ともに、著しく二極化していったのが2023年の印象だ。
では、2024年はどうなるだろうか。1月のマイナス金利解除予想は撤廃され、依然と円安は続いている。本来、地震などの災害時には瞬間的に円高に振れるが、それもない。となると、輸出での貿易利益を前提とすべきだ。では果たして我々サイン業界の材料も、国内で製造されるように変わっていくのだろうか。
私は、それはほぼあり得ないと考えている。数年後、百億円規模の売り上げが見込める上、数千人単位の雇用も確保できるならば、今の円安を活用して日本での開発・製造に取り組むのは分かる。ただし、この小さなマーケットに対して国内メーカーが新しく人や設備を確保し、輸出展開していくとは思えない。つまり、輸入に依存するサイン業界の材料は、今後も値上がりしたままの状態が続くか、賃金アップのためにもっと高騰する可能性も生まれる。この見通しに対処していくには、内製化などによるコストダウン、もしくは顧客への価格転嫁が外せない。看板のメンテナンスが重視されている点も考慮すると、付加価値の高い看板づくりを目指し、薄利多売からいち早く脱却すべきではないか。
今年も、屋外における大型や電飾サインの減少が続き、ファサード、袖看板のないまちづくりは推進されるだろう。大手チェーンなど一部の屋外看板は残るものの、そういった仕事を受注できる製作会社は、冒頭触れたように一部に限る。しかし、屋内に目を向けると、今後はサインとビジュアルの融合が進むのではないだろうか。今までのようにサインとして屋号を示すのではなく、緑色と言えばあそこの看板というような感覚で、ビジュアル化が進むものと考えている。さらに人を呼び込むためにも、春は桜の演出など四季やイベントごとにビジュアルを刷新していく動きは加速するだろう。これらは、もちろん屋外でも可能だが、日本の厳しさを増す条例下では難しいため、より屋内へとシフトしていくと思う。つまり、回転率の高い屋内案件を手離れよくこなせるよう完全内製化し、リピートで仕事を回していくのも将来を見据えたひとつの手と言えよう。
最後に少し、大阪・関西万博のサインディスプレイに触れたい。博覧会協会が発注する主要施設周りの装飾類は、現状では非塩ビを推奨しているものの、最終的にはコストとの兼ね合いで難しくなるように思う。ただし、それ以外の海外や民間パビリオンの多くは、品質重視で価格に捉われない傾向だ。
そもそも海外は、ライトボックス(内照式ファブリック)が当たり前で、垂れ幕と言えばターポリンではなくクロスを指すなど、非塩ビを推奨する必要もない上、合理的であれば一緒くたに塩ビを排除しようともしない。材料を再利用するという考えも浸透しているため、逆を言うと“リサイクルできるもの”と指定をかけるのは日本発注のパビリオンに限られ、根本的な意識の違いを肌で感じる。ともあれ、個人的には関西圏の飲食や商業施設、ホテルなどから得られる業界特需と、それに伴う経済効果へ期待したいと思っている。
次回はガラパゴスシリーズに戻り、第2弾として「日本ならではのSDGs」をテーマに話しを進めていきたい。
文・髙木 蓮
20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。