【レポート】芸術の名門校に木製看板が寄贈されるまで

長野県伊那市の高遠高校同窓会は3月24日、同校玄関に設置する校名看板を母校に寄贈した。西町在住の書家で同校の非常勤講師でもある泉石心さんが手描きと堀りを駆使して刻字した木製看板で、泉さんと同窓会長の大脇弘造さん、前同窓会長の丸山敬一郎さんによって同校に届けられた。【写真は高遠高校の新校名看板。左から近藤校長、泉さん、丸山前会長、大脇会長】

この取り組みが最初に企画されたのは2015年。創立90周年事業として同窓会で寄贈を検討したものの、適切な木材が見つからず、当時は断念したという。

「校名をすべて書き込むためには、2m近くの1枚板である必要があったのです」と泉石心さんは苦笑する。それでも時間を見つけてはコツコツと探し続け、今年に入ってから、ついに理想通りの木材が見つかった。今年で創立95年。2025年にはついに100周年を迎えるなか、新たな門出となる木製看板が誕生した。

同校は芸術コースがあり、書道はもちろん、音楽、美術の専攻を用意している。泉さんはかつては書道コースの指導員として活躍したり、信州豊南短期大学で教鞭を執るなど数々の実績を持ち、その道の生き字引きのような存在となっているそうだ。書道家や教師を目指すものにとって、泉さんのように二足のわらじで両方の道を追求し続けるのは難しい。それでも、彼の背中を見て学ぼうと、毎年書道家を志し、入学してくる生徒もいる。「文字を書く素晴らしさや、この学校の魅力を伝えたい」。そんな思いから、泉さんは筆とのみを握ったのだ。

木製看板をつくる過程で、素材にもこだわりたかったと泉さん。知り合いである木工作家を通じて運命のケヤキ材に巡り合った。その板は作家の自宅に眠っていたもので、板の目の美しさに一目で魅了されたという。測ってみると、H1870×W410×D6㎜ほど。大きさも申し分なかった。

次にこだわったのは文字のフォントだ。看板の文字には楷書か隷書を選ぶのが一般的。今回はより見栄えを重視して隷書を選んだという。紙に筆で描いた文字を木に写して堀り、その字に漆黒色の塗料を流し込んだ。

木製看板が出来上がるには1カ月ほど掛かったという。特に苦労したのは、けやき板の想像以上の硬さだ。何度ものみが折れ、刃もかけてしまった。それでも泉さんは何本ものみを使い、少しずつ文字を形づくっていった。

「字のひとつひとつ、一動作に心をこめて製作しました」と泉さんは胸を張る。この先100年以上経っても、生徒や教員の心に刻まれ、語り継がれるものになってくれたらうれしいと目を細めた。

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