2023年の業界動向

今回は本誌特集に合わせて、「2023年のサイン業界はどうなる?」というテーマで筆を執ってみたい。

まず、屋外広告について話していこう。これに当たり、コロナ禍で好業績を叩き出してきたIT企業における潮目の変化に触れる。現在、米国IT大手のいわゆる「GAFAM (Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)」は、大規模なリストラを展開している。例えば、昨年11月にはFacebook運営元のメタ・プラットフォームズが1万1,000人の解雇を発表し、最近では1月20日にGoogle親会社のアルファベットも約1万2,000人の人員削減計画を明らかにした。つまり、既にコロナ特需は終わり、景気後退への不安から企業や個人がIT投資を控えているのだ。

この話は、コロナ禍で急激に伸びたインターネット広告にも通じる。現に、GoogleやFacebookの広告収入は減少している。この要因としてコロナ特需の終焉はもとより、プライバシー保護の高まりが大きい。そう考えると、今まで屋外広告の欠点とされていた「一方通行」は利点に転じ、その良さが見直される好機となろう。私見としては、2023年は屋外広告のマーケットを伸ばすチャンスだと捉えている。

私は、屋外広告の個人情報に触れない良さを生かしつつ、ターゲットを絞ったり、インプレッションを示したりと広告主のニーズに応えていければ、またクライアントは振り向いてくれると思っている。これらの取り組みは、デジタルサイネージだけではなく、屋内外のサインボードでも技術的にできない展開ではない。この好機に、初期投資を抑えられるアナログ媒体にも、最新技術を導入するような動きを起こさなければ、デジタルサイネージへの置き換わりに歯止めも効かなくなる。ネット広告が停滞している今、この瞬間に動き出さなければ、次はないと考えるべきではなかろうか。2023年は、屋内外のアナログ媒体を復調させる最後のチャンスと言っても過言ではない。

次に、脱炭素に向けた取り組み「GX(グリーントランスフォーメーション)」は、政府も重点投資分野のひとつに掲げており、SDGsや環境配慮に対する動きは企業の至上命題になっていくだろう。日本でのSDGsは、2020年に内閣府から発表された「地方創生SDGs登録・認証等制度ガイドライン」に則り、各自治体が状況に応じて「宣言」「登録」「認証」の3つのモデル類型から制度を構築している。地域金融機関には、地域事業者への支援(非金融サービスを含む)を促しているため、SDGsに詳しくない中小企業にコンサルティングするような動きが活発化しているわけだ。

これらは本来、地域事業者が積極的にSDGsに取り組み、認証や登録を受けることを前提とする。しかし、「SDGs認証がないと、これから仕事は取れない」という考えが先回りしていくと、既存ビジネスに後付けするSDGsウオッシュになってしまう。そこに需要が集まれば集まるほど、ウォッシュも多くなるのは世の常だ。2023年は業界にとってもSDGsやGXは外せないものの、今仕事を取るためにコンプライアンスを遵守せず手を出すと、数年後に大きな代償を払うリスクも生まれる。この点には気を付けてもらいたい。

建設関連では東日本は昨春から、西日本は今年に入ってからの数年は建設ラッシュに突入していく。商業施設やホテルに付随する、案内サイン・箱文字などの製作会社は間違いなく忙しくなる。コロナ禍で現場に入れず、全て下請けに流していた会社は、再び内製化できるよう準備すべきだ。なぜなら、メーカーに受注が集中すれば当然として納期も遅れるし、今春には資材の再値上げも見込まれる。発注量が多ければ、その分叩かれやすいのに、納期も遅い、価格も高いでは立ち回れない。

さらに言うと、残業時間が規制される建設業の2024年問題も控える今、一社一社の看板屋が物をつくり、分散させていかないと立ち行かなくなる。それに、ゼネコンや代理店が半年以上も前倒しして、サインを発注するとは思えるだろうか。2023年は、自社での生産力強化と協力会社の再構築が必須だ。そうしなければ、仕事が取れないどころか、できない会社に陥ってしまう。今後の補助金政策を鑑みても、先を見通した設備投資に着手するなら、今すぐアクションを起こすべきではないだろうか。

    文・髙木 蓮
    20年以上にわたり、サイン業界に身を置き、資機材メーカーのトップセールスマンとして活躍。日本を代表する製造業大手からの信頼も厚く、その人脈と知見をもとに、さまざまな新商品の開発にも携わる。

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